年齢を重ねるとともに、人は等しくがんに罹(かか)りやすくなります。そして、各部位別のがんはそれぞれ、時代とともにその数が増えたり減ったりします。「増えるがん、減るがんがある」、その理由について国立がん研究センターの津金昌一郎さんは「時代とともに食生活などの生活習慣や生活環境が変わるからです」と話します。胃がん、肝臓がんの推移を見た前回に続き、今回は40歳代から増え始め、50歳代からさらに増加する「大腸がん」の近年の傾向とその要因を見ていきましょう。

私はがんという病気を統計学という物差しを用いながら、マクロの視点、ミクロの視点で観察し、「いかに予防できるか」を研究しています。
がんは、がん細胞から腫瘍へと変化するまで数年から数十年かけてゆっくりと進行します。ですから、がんという病気の推移を20~30年といった長い単位で観察し、同様に生活習慣や生活環境の変化もあわせて見ていくことで、がんの発生との関連が見えてくる場合があります。
前回は、ピロリ菌感染が原因となる胃がん、肝炎ウイルス感染によって起こる肝臓がんについてお話ししました。明らかな減少傾向を示しているこの2つのがんは、がん発生の主たる原因が「感染」であることが明確になっており、感染率の低下でその減少の多くを説明できることをお示ししました。このため、その原因を減らすことによって「予防対策を講じやすい」ということもお伝えしました。
大腸がんは1990年代から横ばいから微減傾向に
今回は、食生活など生活習慣の欧米化などと関わりがあるとされる「大腸がん」の近年の傾向についてお話ししましょう。
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | |
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 肝臓 | 膵臓 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 |
男女計 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | |
男性 | 胃 | 肺 | 大腸 | 前立腺 | 肝臓 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 胃 | 肺 | 子宮 |
男女計 | 大腸 | 胃 | 肺 | 乳房 | 前立腺 |
中高年齢層の読者の方なら、「大腸がん」を気にされる方も少なくないと思います。現在、日本では年間約5万人(男性2万7334人、女性2万3347人)もの方が大腸がんで亡くなっています(2017年のデータ)。上の表にあるように、女性の死亡数(同2017年)の第1位になっているのは大腸がんです。罹患数(同2014年)においては男女計で第1位です。
大腸がんも高齢者ほどリスクが高く、高齢化の進行が近年の大腸がん死亡者数増加の最大の要因です。しかしながら、日本人の年齢構成が昔も今も同じと仮定すると、大腸がんの死亡率(年齢調整死亡率)は、右のグラフにあるように戦後は増加傾向にありましたが、1990年代半ばをピークに横ばいから減少傾向に転じています(グラフの青い線)。
大腸がんの年齢調整罹患率(グラフのオレンジの線)の推移を見ても、右肩上がりで増え続けてきましたが、1990年代半ばをピークとして、その後横ばい傾向になっています。
また、このグラフでは、上皮内がんを含む罹患率(グラフの緑の線)も示していますが、こちらは1990年代以降も増加傾向が続いています。上皮内がんとは、がん細胞が、基底膜(上皮と間質を隔てる膜)を破って広がっていない状態であり、厳密にはがんとは異なる病態で上皮内新生物とも呼ばれます。がん保険によっては、上皮内新生物は給付の対象から外されています。
上皮内がんで症状が出ることは稀(まれ)であり、大腸内視鏡検査で摘出したポリープを病理検査して初めて診断されることが多く、浸潤がんへと必ずしも進展しないこともあります。したがって、大腸がん検診や大腸内視鏡検査の普及に伴って、大腸がんが診断されやすくなっていることを反映して、罹患率(上皮内がんを含む)が増加傾向にあると解釈することができます。