がんの実態を知り、正しい対策を講じるには、がんの部位ごとの増減傾向とその要因を把握することが欠かせません。がんを部位ごとに見ていくと、「近年、増えているもの」がある一方で、「減っているもの」があることが分かります。今回は、その中でも、胃がん、肝臓がんの近年の傾向を見ていきましょう。この2つは罹患の原因がある程度明確になっているため、「予防対策を講じやすいがん」と言えます。
連載ではこれまで、「日本人のがん死亡者数は高齢化にともなって増えている」一方で、「以前と同じ人口構成であればむしろ減っている」という事実をお伝えしてきました。
全体として見ると、がんの脅威は以前より増しているわけではない(過度な心配は不要)、ということになりますが、より「自分ごと」として見るには、各部位別のがんの実態、そして自分にとってリスクとなるのはどれなのかを知っておくことが重要です。そこで今回からは、ここ半世紀ほどの期間における、がんの増減やその要因について部位別に見ていきましょう。
がんは、時代とともに変わる
今一度、わが国のがんの統計を振り返ると、「がんは、時代とともに変わる」ということがよく分かります。胃がん、肝臓がん、乳がんなど、それぞれの部位ごとに、減ったり、増えたりするもの、あるいは増加傾向から減少傾向に転じたものもあります。下のグラフは、ここ半世紀くらいの、がんの年齢調整死亡率の年次推移です。
時系列で見てまず気付くのは、胃がんが戦後大きく減少していることです。これは男女ともに同様の傾向が見られます。肝臓がんは、戦後ゆるやかに減少した後に、70年代半ばくらいから増加に転じ、さらに1990年代半ばから再び減少しています。
現在、男性での死亡率トップとなっている肺がんは、戦後に増加してきましたが、1990年代から横ばいとなり、その後は減少傾向にあります。結腸がん、前立腺がんも似た推移となっています。
女性については、戦後、子宮がんが大きく減少していますが、1990年以降横ばいとなり、近年では微増傾向にあります。乳がんは、戦後増加傾向が続いてきましたが、近年は、横ばい傾向にあります。
このように、がんの種類(部位)によって、増えたり、減ったりするのは、その発生に関わるファクター、つまり原因が変化しているからです。
原因が変われば、結果に反映される。この事実が腑に落ちると、「がん予防」の対策がしっかりとしたエビデンスに基づいて提示されていることをご理解いただけると思います。今回はそんなお話をしていきましょう。
今回主に解説するのは、胃がん、肝臓がんです。この2つのがんは、がん発生の原因がある程度明確になっているため、その原因を減らすことによって、がんに罹(かか)ったり死亡したりすることを減らすことが可能な、いわば「予防対策を講じやすいがん」と言えます。