私たちが今後の人生について考えるとき、「長さ」だけでなく「中身」、つまり健康寿命(介護を受けずに過ごせる期間)も重要になります。では、日本人の最大の死因「がん」は、介護につながる大きな原因になるのでしょうか。国立がん研究センターの津金昌一郎さんは「がんが原因となり介護になることは相対的に少ない」と話します。今回は、「高齢者ががんで死ぬのは、必ずしも悪いことではない」と話す津金さんに、その理由を語っていただきました。
前回、がんは加齢に伴い発生しやすい病気であり、長生きすればするほど罹(かか)りやすくなるということを紹介しました。すなわち、人生の長いスパンで考えると、がんにならないことはとても難しくなるため、がん予防の基本は、がんになるのを先延ばしすることにあると考えています。そこで、今回は、高齢になってからがんになることの1つの考え方をお示ししたいと思っています。
「高齢者ががんによって亡くなるのはさほど悲観することではない。がんで死ぬのも悪いことではない」――。
私は、がん予防をテーマにした講演などでこうお話しすることがあります。

この連載を読んでくださっているみなさんは、がんという病気に対して何らかの不安を感じ、がんに罹らないために役立つ情報を得たい、という思いを持った方だと思います。
予防法を知りたいのに、「がんで死ぬのも悪くない」とはいったいどういうことか、と思われるかもしれません。講演などでお話しすると、「ずいぶん過激なことを言うな」と驚かれる方もいます。
実際、私自身も「死ぬなら、がんで死ぬのは悪くない」と思っていますし、同様に考えている知人の医師を何人も知っています。もちろん、私がそう考えているのには理由があります。それは、がんは高齢者では介護の原因になりにくい、そして死期がある程度予測され、それまでに終活を行うことができる、といった理由です。今回は、これらについてお話ししたいと思います。
「健康寿命」をできるだけ長くしたいのは共通の願いだが…
私たちが今後の人生について考えるとき、寿命の「長さ」だけでなく、その「中身」も重要であることは多くの人が認識されていると思います。寝たきりの期間を少しでも短くして、介護されることなく自分で自立できている期間、いわゆる「健康寿命」をできるだけ長くしたい、というのが多くの人の望みでしょう。
健康寿命とは、「人の寿命において、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいいます。現状(2016年)では、男性の平均寿命は80.98歳ですが、健康寿命は72.14歳。そこには8.84年の開きがあります。女性は平均寿命が87.14歳、健康寿命は74.79歳。12.35年の開きがあります。
この男性で約9年、女性で約12年もの期間は、健康上の問題で日常生活に制限を受ける期間となります。その典型的な例が寝たきりになり、介護を受ける状態になるわけです。

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