日本人の2人に1人ががんに罹患する今の時代。がんへの不安に応えるように、世の中にはがん予防の情報があふれています。しかし、がん予防の情報は玉石混交。正しい情報を探すには、科学的根拠が重要となります。本連載では、国立がん研究センターの津金昌一郎さんが、科学的根拠に基づいたがん予防法を解説していきます。
今回は「生まれつきの体質ががん発生にどのぐらい関わるのか」を明らかにした研究を紹介します。遺伝要因が同じなら同じようにがんに罹(かか)るのでしょうか。

「がん家系」という言葉があるように、「がんは遺伝するのでは?」と思っている方が多くいます。
確かに、特定のがんは、血縁者間で同じがんに罹るリスクが高い傾向があり、遺伝要因が影響していることが知られています(詳しくは後述)。しかし、実際には、がんの罹患は食事やライフスタイルといった生活習慣の方が色濃く影響します。
前回はこの事実を「3つの状況証拠」を基にお伝えしました。3つの状況証拠からは、「がんの罹患は、遺伝要因よりも、はるかに生活や環境の影響が大きい」ということが分かります。今回はこの事実を別な視点から裏付ける興味深い研究があるのでご紹介しましょう。2000年に発表された、北欧の「双子」を対象とした研究です。
「遺伝要因が100%同じ」なら、同じようにがんに罹る?
研究対象を双子にするのには、理由があります。
双子として生まれるには、2通りのタイプがあります。いわゆる「一卵性」「二卵性」です。
「一卵性」は、1つの卵子に1つの精子が受精した後、その受精卵が2つに分かれて、誕生するもの。一卵性の双子は、基本的に100%同じ遺伝子情報を持ち、性別、血液型ともに同じです。「二卵性」は、2つの卵子にそれぞれ別の精子が受精して生まれたもの。遺伝的には、平均して50%同じ遺伝子情報を持っています。性別、血液型は、同じ場合と異なる場合があります。

病気の罹りやすさには、遺伝による要因と環境による要因が関わります。一般の人を広く対象とする研究では、遺伝要因、環境要因がともに異なるため、大勢の人を解析しても、環境要因がどの程度影響しているかを突き止めにくいという課題があります。
しかし、一卵性の双子では、遺伝要因が100%同じなので、「環境要因が発がんの要因である」ことを明確に判断することができます。さらに、遺伝子が半分同じである二卵性の双子も併せて比較することによって、遺伝要因と環境要因の関わる度合いを詳細に解析することができます。このような理由から、世界各国で、双子を対象にした研究が行われています。
ここから紹介する北欧の研究では「がんの罹患」をテーマに調査が行われました。
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