日本人の2人に1人ががんに罹患する今の時代。がんへの不安に応えるように、世の中にはがん予防の情報があふれています。しかし、がん予防の情報は玉石混交、正しい情報を探すには科学的根拠が重要となります。本連載では、国立がん研究センターの津金昌一郎さんが、科学的根拠に基づいたがん予防法を解説していきます。
がんの罹患は、遺伝的な要因より生活習慣や環境に大きく影響を受けることが分かっています。今回は、この事実を裏付ける「3つの状況証拠」について解説します。
男性のがんの約5割、女性の約3割のがんが予防可能
私は、これまで30年以上にわたって「がん」がどのような要因で発生するのかについて研究を行ってきました。その結果、がんの中には「回避できるもの」がたくさんある、ということが分かってきました。前回も「がんは本人の意志によって変えることができる環境要因の影響を受ける。つまり予防が可能である」とお伝えしました。
実際に、私たちの研究グループが、全体の何%のがんが「喫煙」「飲酒」といった生活習慣や「ピロリ菌感染」など、現段階で原因として確立している要因によって起こったのかを明らかにした研究があります。その報告では、「男性で53%、女性で28%のがんが、生活習慣や感染などの避けられるリスクが原因で起こっていた。つまり、男性のがんの約5割、女性の約3割のがんが予防可能である」というデータが出ています(Ann Oncol.2012;23(5):1362-9.)。

男性については5割ものがんが生活習慣に起因している、と聞いて、「え、結構影響が大きいんだね」と思われた方も多いのではないかと思います。
なお、内訳についてはまた回を改めて紹介しますが、喫煙の要因がとても大きいなど、「ああ、やっぱりね」という結果になっています。男性より女性の方が数字が低いのは、喫煙者や飲酒者が少ない、つまり女性の方が「がんリスクが低い生活習慣」をしている(人が多い)ことが見えてきます。
5割ものがんが予防可能というと、「それなら生活改善をやってみようかな」と思う人も少なくないと思います。ぜひ、そうしていただきたいのですが、その一方で、「それって本当?」「やっぱり遺伝的要因が大きいのでは?」と思われている方も多いと思います。
実際、「うちの家系はがんで亡くなった人が多い」「親ががんで亡くなったから、自分も罹(かか)るのでは」と思われている方は多くいらっしゃいます。こうした話をすると、「うちの祖父はたばこをスパスパ吸っていたのに長生きしたから、実は喫煙はがんとは関係ない」などと言う人も必ず出てきて、何が正しい情報なのかが分からなくなってきます。
厚生労働省の研究班が行った「日本人のがん予防に対する意識調査」(全国の成人男女2000人を対象に調査、2003年)においても、過半数の人が「がんは20%以上、遺伝子により運命づけられている」と答え、5人に1人が「がんの50%以上は遺伝子の影響」という意識を持っていました(BMC Public Health.2006;6:2.)。
やはり「がんは遺伝する」と思っている人が、少なくないわけです。しかし、ここでは冷静に判断する必要があります。先ほどのヘビースモーカーのケースのような特殊例で主観的、感覚的に判断することは避け、客観的な統計情報を基に判断することが大切です。
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