本連載で紹介してきたように、がんのリスクは日々の生活習慣により下げることができます。男性の場合、約5割ものがんが予防可能です。実践しない手はありません。
国立がん研究センターは、これまで蓄積してきた研究成果をもとに、日本人が実践すべき「5つの健康習慣」を提唱しています。今回は、この中から「節酒する」と「身体を動かす」の2つの対策について見ていきましょう。
前回は、日本人が実践すべき「5つの健康習慣」のうち、「食生活」と「体型維持」について紹介しました(禁煙については前々回を参照)。今回は残りの2つ、「節酒する」と「身体を動かす」について解説していきます。
まず、飲酒について見ていきましょう。読者のみなさんの中にも、お酒は人生の楽しみの1つという人は多いでしょう。がんのリスクを下げるには、お酒とどう付き合えばいいのでしょうか。

「酒は百薬の長」と言われるように、お酒は適度に飲んでいれば健康に良い面もあります。例えば、適量の飲酒は心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げます。しかし、脳出血のリスクを高めるという側面もあります。また、大量の飲酒は、肝障害、アルコール依存症などさまざまな健康リスクにつながります。
では、お酒とがんの関係はどうなのでしょうか。
国立がん研究センターによるリスク評価では、飲酒はすべてのがん(全部位)においてリスクを高めることが「確実」としています。すべてのがんリスクを高めることが「確実」と評価されているのは、現状では、喫煙と飲酒のみである、ということはしっかりとご記憶いただきたいと思います。部位別で見ると、肝臓がん、大腸がん、食道がんのリスクが高まることが「確実」となっています。
なぜ、飲酒ががんのリスクを高めるのでしょうか。その要因の1つに、アルコールが体内で分解されて生じる「アセトアルデヒド」の影響があると考えられます。アセトアルデヒドは発がん性があることが知られており、口腔がんや食道がんの発生に関与しているといわれています。
大腸がんや乳がんについては、葉酸(ビタミンB群の1つ)が関係していると考えられています。葉酸は、その名の通り葉野菜などに多く含まれるビタミンで、DNA(遺伝子)の合成に欠かせない栄養素です。アルコールを大量にとると葉酸が消耗しやすくなるのですが、その不足により細胞の複製が不完全になるケースが出てくることががんの発生につながると考えられます。また、乳がんについては、アルコールの女性ホルモン代謝に対する影響も考えられています。