日本で唯一の「足」の総合病院、下北沢病院。同院の医師たちが『歩く力を落とさない! 新しい「足」のトリセツ』として、足のセルフケアや治療法についてまとめました。本書から、医師たちが足のトラブルを防ぐために最も重要視する「アキレス腱の柔軟性」について紹介します。アキレス腱はふくらはぎのふくらみを作っている下腿三頭筋と、かかとの骨をつないでいる人体最大の腱です。そもそも「アキレス腱」がどんな働きをしているのか、足の若さにどう関わるのか、聞きました。
「かかとが痛くなる足底腱膜炎(そくていけんまくえん)や、外反母趾など、足に痛みを抱えて受診された多くの方に『アキレス腱伸ばし』をお薦めしています」と話すのは、足を専門的に治療する総合病院、下北沢病院足病総合センター長の菊池恭太さんだ。

歩く力を保つためのストレッチや筋トレ、マッサージなどのほか、外反母趾、下肢静脈瘤、巻き爪、水虫、足底腱膜炎、偏平足などのセルフケアをまとめた一冊。
たかが「アキレス腱伸ばし」と思うなかれ、「しっかり行ってもらうと、足底腱膜炎では半数以上の方の症状が治まるなど、一定の改善効果を実感します。アキレス腱炎などにもいい。幅広い足の痛みに役立つうえ、どんな方も知っている動きなので、薦めやすいという利点もあります」と話す。
繰り返し「アキレス腱伸ばし」の重要性について語ってきたこの連載。今回は、アキレス腱について詳しく聞いた。
人体最大の腱 足の健康に深く関わる
アキレス腱は、多くの人が名称を知っている最も有名な「腱」といえるだろう。ふくらはぎのふくらみを作っている下腿三頭筋(かたいさんとうきん)と、かかとの骨をつないでいる人体最大の腱だ。15cmほどなのに、1トンの重さにも耐えうるといわれるほど強靭で、「手術で見ていますが、白くて硬い。伸びますが、筋肉ほどの伸縮性はありません」(菊池さん)。
そもそも「アキレス」とはギリシャ神話の英雄の名前。ある経緯から、かかとが急所となっており、敵にかかとを矢で射られて死んでしまう。それが名称の由来だが、致命的な弱点の表現としても使われる。そんなアキレス腱の柔軟性が、足の健康の“急所”ともいえるのだ。
アキレス腱が硬いと、主に2つの問題が起こると菊池さんは指摘する。
1つ目は、歩く際に、足のアーチに負荷がかかることだ。土踏まずを見てわかるように、私たちの足裏は平らではなく、アーチ構造がある。これが全身の体重を支え、歩くときの衝撃を和らげている。しかも、アーチが崩れると、足底腱膜炎や外反母趾など、さまざまな足の痛みや病気につながる。詳しくは後述するが、アキレス腱が硬いと、歩くたびにアーチをつぶすような動きになってしまうのだ。
2つ目に、足や脚の血流低下の原因になること。ふくらはぎは第二の心臓ともいわれ、その伸縮する動きがポンプ作用となり、静脈の血液を押し上げる役割を担っている。
アキレス腱が硬いと起こる 2つのこと
アキレス腱の柔軟性は、足の健康を左右する。アーチの問題だけでなく、しっかり下腿三頭筋が動かないため、むくみやすさにもつながる。

「アキレス腱につながっている下腿三頭筋がしっかり使われないとふくらはぎのポンプ作用が落ち、冷えやむくみが起きやすくなります」と菊池さんは話す。つまり、アキレス腱が硬いと、足や脚の健康を脅かしかねないということだ。
では、どうやってアキレス腱の柔軟性を維持すればいいのか。その答えが、「アキレス腱伸ばし」を習慣的に行うことだ。
「アキレス腱伸ばしは、足を守る、最も大切で、基本的なセルフケアです。下北沢病院の医師たちは、足の耐用年数は50歳ではないかと仮説を立てています。実際、50歳を過ぎると、なんらかの足の痛みや障害などが起きてくることが多い。それらから足を守るのが、『アキレス腱伸ばし』なのです」