年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うでしょう。そのためには何が必要でしょうか? 国立長寿医療研究センターの遠藤英俊さんが、最新の研究結果を基に、認知症予防について解説します。今回は、定年退職後の男性にとって気をつけたい「孤独」のリスクについて。

退職後の高齢男性の一人暮らしはリスク大
この連載の第1回で、「改善が可能な認知症の9つのリスク要因」を紹介しました。そのなかの要因の一つとして、高年期(65歳超)における「社会的孤立」がありました。その相対リスクは、「1.6倍」とかなり高くなっています。
社会的孤立とは、文字通り周囲の人との交流がなく、会話もないという状態を示します。特に一人暮らしの高齢男性に多く、私の患者さんのなかにも、何日も他人と話すことがない、という人がいます。
人間の脳というのは、しゃべることで神経細胞同士のやりとりが盛んになり、活性化していきます。一方、しゃべらないで長期間じっとしていると、使われない神経細胞のネットワークが除去されてしまいます。つまり、社会的に孤立して、他人としゃべらないこと自体が、認知症のリスクになるわけです。
WHO(世界保健機関)の認知症予防ガイドラインでも、「認知症予防に限らず、生涯を通して社会との交わりが必要」と説いています。
もちろん、テレビを見ることでも脳は働きますが、一方的に情報を受け取るだけであり、会話ほどは脳を働かせていません。テレビの内容を語り合う人がいればいいのですが、一人暮らしで閉じこもりがちの人には、それもできません。
ところで、社会的孤立によるリスクについて、もっと高い数字を挙げる研究結果もあります。
スウェーデンのカロリンスカ研究所が、ストックホルム在住75歳以上の1203人を3年間追跡した研究では、家族や友達が多く「社会的接触」が多い人に比べ、接触が乏しい人は認知症の発症率がおよそ8倍になるという結果が出ています(*1)。

社会的接触の度合いを4段階に分けて、最大のグループと最小のグループを比較した結果、こうした大きな数字が出てきました。いずれにしても、社会的な孤立は認知症にとって大きなリスクであることは間違いありません。