年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うでしょう。そのためには何が必要でしょうか? 国立長寿医療研究センターの遠藤英俊さんが、最新の研究結果を基に、認知症予防について解説します。今回は、認知症の予備軍とされる「MCI(軽度認知障害)」について。
認知症予備軍とされる「MCI(軽度認知障害)」とは?

人生も半ばを過ぎ、50代や60代になると、もの忘れが気になってくることでしょう。
人の名前が出てこない、何かをしようと立ち上がった瞬間に何をするのかを忘れた、といった経験はどなたにもあることです。
しかし、たまに忘れるのはともかく、こうしたもの忘れが度重なってくると、「認知症の初期症状ではないか?」と心配になってきます。
結論から言えば、もの忘れは認知症ではありません。もの忘れは「出来事の一部を忘れる」ものです。それに対して、「出来事をすべて忘れる」のが認知症の症状です。
例えば、「今朝、食べたものを思い出せない」のがもの忘れで、「食事をしたこと自体を忘れてしまう」のが認知症なのです。
ですから、以前は「もの忘れのレベルならば、認知症の心配はない」というのが常識でした。認知症の相談を受けた医師も、簡単な検査をして「異常なし」であれば、「しばらく来なくても大丈夫ですよ」と言うのが一般的でした。
しかし、最近になって、認知症の前段階として「MCI(Mild Cognitive Impairment/軽度認知障害)」という状態があることが分かってきました。
MCIが認知症と大きく違うのは、もの忘れが頻繁に起こるなどの記憶障害を本人や家族が自覚しているけれども、日常生活に支障がなく、介護を必要としていないという点です。車の運転も料理もできます。
やや抽象的ですが、MCIは次のように定義されています。
MCIの特徴
1.
記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
2.
日常生活動作は正常
3.
全般的認知機能は正常
4.
年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
5.
認知症ではない
このうち、4番目の「年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する」に注目してください。つまり、年相応のもの忘れ(記憶障害)があるだけでは、MCIには当てはまらないのです。年齢などでは説明できない記憶障害かどうかは、後述するように、テストを行ってその得点を見て判断します。
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