年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うでしょう。そのためには何が必要でしょうか? 国立長寿医療研究センターの遠藤英俊さんが、最新の研究結果を基に、認知症予防について解説します。今回は、認知症と定年後の過ごし方について。「校長先生は退職後に認知症になりやすい」という“俗説”があるのですが、それはなぜでしょうか?
「校長先生は退職後に認知症になりやすい」は本当か?

こんな話を聞いたことがありませんか?
「校長先生は、学校を辞めて退職すると、認知症になる人が多い」
これは、認知症に関わる医療関係者なら聞いたことのある“俗説”です。もちろん、科学的根拠はありません。
前回、「学歴が高い人は認知症になりにくい」というお話をしました。校長先生が認知症になりやすいというと、それに対して矛盾するように感じるかもしれません。
確かに、具体的な研究データはありませんが、医療関係者が「そういったこともあるかもしれない」と感じるのは、校長先生の退職後の過ごし方に理由があります。
同じ高学歴の職業でも、医師や学者が認知症になりやすいという話はあまり聞きません。校長先生だけがこんな風に言われるのはなぜでしょうか。
民間の会社や病院ならば、定年後に再雇用ということもあるでしょう。学者ならば、年齢に関係なく好きな学問に取り組むことができます。ところが、校長先生は定年を迎えると、新しい職場で働くという機会があまりありません。
しかも、在職中は重大な責任を負って神経をすり減らしてきたのですから、退職後はしばらくのんびりしたいという気分になるかもしれません。定年後に別の新しい世界に飛び込もうという人も、少ないのでしょう。
前回ご紹介した、「改善が可能な認知症の9つのリスク要因」では、高年期(65歳超)におけるリスク要因として、喫煙、糖尿病のほかに、抑うつ、運動不足、社会的孤立などが挙げられていました。
退職後にのんびりしようと思った校長先生には、この後半の3つの要因が関わってくる可能性が高いのです。
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