年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うでしょう。そのためには何が必要でしょうか? 国立長寿医療研究センターの遠藤英俊さんが、最新の研究結果を基に、認知症予防について解説します。今回は、認知症の予防にも期待できる新しい治療薬について。

画期的な認知症治療薬として期待される「アデュカヌマブ」
昨年(2019年)12月、認知症関連の大きなニュースがありました。メディアでも取り上げられたので、ご存じの方も多いでしょう。米バイオジェン社が、日本の製薬会社エーザイとともに開発しているアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」の臨床試験データを公表したのです。
それによると、早期のアルツハイマー病患者を対象にした治験(臨床試験)で、認知機能の低下を2割ほど遅らせるなどの効果があったというのです。この結果に基づいて、同社はFDA(アメリカ食品医薬品局)に認知症の進行を遅らせる治療薬としての申請を行うとし、早ければ2021年には承認される可能性が出てきました。
アルツハイマー病は、アミロイドβというたんぱく質が脳内に沈着することがきっかけとなって神経細胞が破壊されると考えられています。アデュカヌマブは、そのアミロイドβという“ゴミ”を除去することにより、認知機能の低下を遅らせることを狙っています。
これまでFDAの承認を受けた認知症の薬としては、エーザイが1997年に発売した「アリセプト」が知られています。一般名は「ドネペジル」というもので、これは認知症を発症した患者さんに対して、一時的に認知機能を改善する効果にとどまっていました。
これに対してアデュカヌマブは、アルツハイマー病そのものへの効果が期待できるという点が大きく違います。認知症にかかわる関係者や患者さんとその家族のみならず、社会的に大きな関心が持たれるのも当然といえるでしょう。