年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うでしょう。そのためには何が必要でしょうか? 国立長寿医療研究センターの遠藤英俊さんが、最新の研究結果を基に、認知症予防について解説します。今回は、認知症予防の効果が期待できる娯楽やゲーム、ボランティア、そして心療療法である「回想法」について取り上げます。

前回は、高年期(65歳超)において「社会的孤立」を避けることが、認知症予防にとって非常に重要であることを述べました。そして、日常生活での対策として、近所の人との挨拶や友人との会話を欠かさないといった心得を紹介しました。
今回は、さらに積極的な認知症予防法として、さまざまな娯楽やゲーム、ボランティアなどについて考えていきましょう。
カラオケには老化防止のさまざまな機能がある
手軽でありながら、認知症予防に効果が期待できる娯楽として挙げられるのはカラオケです。
カラオケは何よりストレス発散になります。大きな声で歌えばすっきりした気分になることは、どなたも経験があるでしょう。不安で落ち込んだ気分を解消することは、認知症のリスク要因を減らすことにもつながります。
そもそも音楽には、脳波や血圧や脈拍などに変化を与えたり痛みを和らげたりと、さまざまな効果があることが知られており、国立長寿医療研究センターでもピアノに合わせて歌うなどの音楽療法を行っています。音楽療法は、認知症に伴って現れる多動、徘徊、不安・焦燥、アパシー(無気力状態)などの行動・心理症状(BPSD)の改善に有効とされています。
三重大学の佐藤正之准教授によると、音楽に合わせて体を動かした後に、認知機能検査の一部の結果が改善したという結果が出ています。ですから、カラオケの歌に合わせてリズムを取れば、さらにいい効果があるかもしれません。
また、声を出すことで喉の機能が鍛えられるため、誤嚥防止にも効果があります。誤嚥によって、食物や唾液に含まれた細菌が肺に入り込んで起きるのが、高齢者にとって恐い誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎を防ぐことが健康長寿につながることはいうまでもありません。
さらに、人前に出てカラオケで歌うようになれば、当然のことながら人の目を意識するようになります。身なりを整えて、服装に気を使うことも認知症予防に大切な要素の一つです。
もう一つ、あとで紹介する「回想法」と関係してきますが、懐かしい歌とともに昔を思い出すことが、認知症予防につながるというメリットもあります。
運動や食事に比べると、カラオケによる認知症のリスク低減効果はそれほど大きくはないかもしれませんが、このように多面にわたる効果が期待できるので、ぜひ、積極的に楽しんでいただきたいというのが私の意見です。