健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。今回のテーマは「潰瘍性大腸炎」です。
今回のテーマは、安倍晋三前首相を2度も辞任に追い込んだ病気としても知られる「潰瘍性大腸炎」です。この連載の第1回で、近年、潰瘍性大腸炎とクローン病が急増していることに触れましたが、安倍前首相の辞任を機に、今回あらためて、潰瘍性大腸炎がどんな病気なのか解説したいと思います。
日本の潰瘍性大腸炎の患者数は米国に次ぐ世界第2位
この連載でもお伝えしてきた通り、日本人の食生活の欧米化が進むとともに、便秘や下痢などの腸の不調に悩む人が増えてきました。とはいえ、私が医学生だった1970年代には、潰瘍性大腸炎やクローン病のような、治療が困難な炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)を患っている人はごくわずかでした。
潰瘍性大腸炎は1975年に、クローン病は1976年に、それぞれ国の特定疾患(現在の指定難病)に指定されました。当時の患者数は潰瘍性大腸炎が965人、クローン病は128人。それが、2014年には潰瘍性大腸炎の患者数は約17万人、クローン病は約4万人に膨れ上がりました。2015年1月に施行された難病法により、医療費の公費負担が受けられる医療受給者証の交付対象から軽症患者(一部を除く)が外れた関係で、2017年度以降は交付件数から全体の患者数を知ることができなくなっています(図1)。それでも、2017年に報告された全国疫学調査(*1)では、潰瘍性大腸炎の患者数は約22万人、クローン病は約7万人と報告されています。

潰瘍性大腸炎の患者数は、日本の指定難病の中で最も多く、世界でも米国に次ぐ第2位となっています。実は、指定難病の要件の1つに「患者数が日本の人口の一定数に達しないこと(0.1%程度以下)」というものがあるのですが、今やその要件を超えるほどに患者が急増しているのです。
発症のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳ですが、もっと若い世代から中高年、高齢者でも発症します。
軽症の場合は過敏性腸症候群に間違われることも
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍ができる、慢性かつ難治性の炎症性腸疾患です。主な症状は、下痢や粘り気のある血が混ざる粘血便で、病状が悪化すると、1日に何度も下痢を繰り返したり、それに伴い腹痛が起きたりすることで、日常生活に支障を来すことがあります。発熱、貧血、体重減少といった症状のほか、皮膚や目、関節などに合併症が起こることもあります。
潰瘍性大腸炎は下痢を繰り返すことが多いため、軽症の場合、過敏性腸症候群(詳しくはこちら)の下痢型と間違われることがあります。過敏性腸症候群などの通常の下痢と、潰瘍性大腸炎の下痢との違いは、真っ赤な血便を伴うことです。
ただ、通常の下痢でも、血便が伴うことはあります。例えば、下痢を繰り返しているといわゆる切れ痔(裂肛)になることで、出血した血液が便に混ざることがあるため、自己判断は困難です。