健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。今回のテーマは「腸冷え」です。
朝晩、ひんやりと冷え込むようになってきました。この連載の第1回では、「日本人の腸内環境を悪化させた4つの要因」として、食生活の欧米化、不規則な生活、ストレス、運動不足を挙げました。実はこのほかにも、腸の健康に悪影響を与える要因として、私が問題視していることがあります。それは、腸が冷えてしまう「腸冷え」です。
私のクリニックの便秘外来には、全国から多くの患者さんが訪れますが、寒くなってくるにつれ、患者さんが増えてきます。気温の低下が冷えを招き、腸の働きが停滞することで、便秘などの腸の不調を起こす人が多くなるのです。そこで今回と次回は、「腸冷え」をテーマにお話ししたいと思います。

「腸冷え」は自律神経の乱れを招き、免疫力を下げる
私たちの体には本来、体温を調節する機能が備わっています。例えば、外気温が下がって寒くなると、皮膚にあるセンサーが反応して、脳の視床下部にある体温調整中枢に情報を伝えます。すると、体温調整中枢は体内で作られる熱の量を増やし、体の中心に血液を集めて放出する熱の量を減らすよう働きます。このとき、脳に情報を伝えたり、脳からの指令を血管に伝えたりする役割を担っているのが、自律神経です。
自律神経には、活動的な状態や緊張状態を作る交感神経と、リラックス状態を作る副交感神経があり、互いがバランスよく切り替わりながら、体温をはじめとする体の状態が一定に保たれるように働いています。
健康で自律神経が正常に働いていれば、寒い場所に出て一時的に体が冷えても、体温調整中枢が働き、体温を保ちます。ところが、慢性的な冷えにさらされていると、自律神経のバランスが乱れて体温調節がうまくできなくなり、さまざまな症状を引き起こしてしまいます。
例えば、交感神経が優位になりすぎる(強く働きすぎる)と、心拍数が増えて動悸や息切れを引き起こします。また、手足などの末梢の血管が収縮して血圧が上がり、頭痛を起こすこともあります。一方、副交感神経が優位になりすぎると、心拍数が低下して末梢の血管が拡張し、血圧が下がります。その結果、めまいや倦怠感などが表れることがあります。そして、自律神経のバランスが崩れてしまうと、胃腸の不調や睡眠障害、うつ症状なども生じやすくなります。腸では特に、蠕動(ぜんどう)運動が異常に高まったり、腸の働きが低下したりすることで、便秘や下痢を引き起こします。
私のクリニックの患者さんの統計では、屋外と屋内の気温に10度以上の急激な差が出てくると、定常な気温のときに比べて、便秘の患者さんが約3倍に増えることが分かりました。私はこれを「気温差10度の法則」と呼んでいます。気温差が10度以上あると、自律神経の働きが追いつかず、腸への負担が急激に増すようです。この気温差は、冬場だけではなく、夏場にクーラーのきいた屋内と炎天下を行き来するような場合にも当てはまります。