健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。今回のテーマは「停滞腸」です。
前回は、腸の不調の代表的な症状の1つである、下痢についてお話ししました。読者の皆さんの中には、便秘や下痢とまではいえないものの、お腹が張ったり(腹部膨満感)、便がすっきり出なかったり(残便感)といった不快感がある人もいるかもしれません。
実際、私が開業前に勤務していた松島病院大腸肛門病センター・松島クリニック(横浜市西区)で、排便が正常な500人と慢性便秘の患者さん500人を無作為に抽出し、自覚症状の有無について調査したところ、排便が正常な人でも、約6割がお腹の膨満感があると回答しました。
腹部膨満感や残便感は、腸の働きが低下することによって起こります。私はこの状態を「停滞腸」と名付けました。停滞腸を放置していると、腹痛の原因になったり、便秘や下痢を引き起こしたりすることがあります。そこで今回は、停滞腸についてお話ししたいと思います。

お腹の張りは腸内にたまったガスが原因
腸の働きが悪くなると、お腹のガス(おなら)の排出がうまくいかなくなり、腸内にたまって「鼓脹(鼓腸)」と呼ばれる状態になります。これが、腹部膨満感の原因です。排便がほぼ毎日順調にあったとしても、停滞腸でガスがうまく排出できなくなってしまうと、お腹が張ったり、苦しくなったりしてしまうのです。
このガスの成分の約7割は、会話や食事のときなどに無意識に飲み込んでいる空気です。飲み込んだ空気のほとんどは、胃の中で一定の内圧を超えると、いわゆるゲップとして口から体外に吐き出されます。残りの約3割は、腸内にある食べ物の残りカスが、腸内細菌によって分解されるときに発生するガスです。
健康な人が1日に排出するガスの量は、およそ2~3リットルといわれています。これだけの量のガスが腸にたまれば、お腹がかなり張って、時には腹痛を起こすこともあります。
停滞腸になった人の多くは、次第に残便感を自覚するようになります。便が排出しきれない状態になると、腸内に滞留した便の腐敗が進み、ガスの悪臭が強くなります。また、老廃物や毒素が腸内に長期間とどまることで、ニキビや肌荒れを起こすこともあります。
停滞腸のまま腹部膨満感が続くと、次第に排便回数が2~3日に1回、それよりも少なくなっていきます。つまり、停滞腸は便秘の前段階ともいえるのです。一方、停滞腸で腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスが崩れると、水分の吸収がうまくいかなくなるなどのトラブルが起こり、下痢を引き起こすこともあります。
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