健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。
前回は、日本人の食の欧米化により、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを整える上で重要な植物性乳酸菌の摂取量が低下していることをお話ししました。植物性乳酸菌と同様に、腸の健康に欠かすことができないのが食物繊維です。
しかし、この食物繊維の摂取量も年々減少傾向にあり、私は植物性乳酸菌とともに食物繊維の摂取不足が、現代日本人の腸の不調を招く大きな要因になっていると考えています。そこで、今回と次回の2回にわたって、食物繊維について詳しくお話ししていきたいと思います。

食物繊維は腸のエネルギー源として欠かせないもの
食品に含まれるたんぱく質やビタミンなどの栄養素は、人の体で消化・吸収されてその力を発揮します。一方、食物繊維は、人の体で消化・吸収されません。そのため、かつては栄養のない「食べ物のカス」と考えられ、栄養学的にはあまり重要視されていませんでした。ところが、研究が進むにつれ、食物繊維は小腸・大腸のエネルギー源として欠かせないものであることが明らかになりました。
食物繊維は大腸に到達し、その多くは便のもとになりますが、一部は腸の善玉菌によって分解されて、短鎖脂肪酸になります。短鎖脂肪酸には酢酸、プロピオン酸、酪酸が含まれますが、酪酸は大腸の一番のエネルギー源となり、小腸においてもアミノ酸の一種であるグルタミンに次ぐ二番目のエネルギーとなります。つまり、食物繊維をとらないと、腸のエネルギー源を十分に得ることができないのです。
酪酸は腸内環境を酸性にするため、善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすことで腸内フローラのバランスを整えます。さらに、酪酸には大腸で過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞を増やし、炎症を抑える働きがあることが示唆されていて、腸の専門医の間で注目されています。