健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。今回のテーマは「大腸内視鏡検査」です。
40歳以上になると高まる大腸がんリスク
この連載では、健康“腸”寿を実現するために大切な食事や生活の秘訣を、さまざまなエビデンスとともにご紹介してきました。腸の健康に気を配る生活を送っていても、炎症性腸疾患や大腸ポリープ、大腸がんなどの病気を発症してしまうことはあります。そうした病気の早期発見に役立つのが、大腸内視鏡検査です。
慢性的な便秘や下痢がある人をはじめ、40歳以上の人なら、これといった自覚症状がなくても1度は大腸内視鏡検査を受けておくことをお勧めします。40代以上になると、大腸ポリープや大腸がんの発見率が高まるためです。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、がん検診の受診を控える人が多いようです。その影響で、今後、がんが進行した状態で見つかり、治療が困難になるケースが増えてしまうのではないかと懸念されています。感染拡大の状況を鑑みながら、がん検診にも目を向けていただきたいと思います。
ただ、大腸内視鏡検査と聞くと、苦痛が伴うのではないかと不安に思われる人も多いようです。そこで今回は、大腸内視鏡検査を受ける意義や、受ける前に知っておきたいポイントをお話ししていきたいと思います。
罹患率第1位の大腸がん、便潜血検査だけでは早期発見に限界
国立がん研究センターが発表している最新のがん統計では、2017年に新たに診断されたがんのうち、大腸がんは罹患率で第1位となっていて、男性では10人に1人、女性では12人に1人が、一生のうちに大腸がんにかかるとされています。死亡率も高く、2019年の部位別のがん死亡率では、大腸がんは第2位(女性では第1位)となっています。
ただし、大腸がんは早期に発見・治療ができれば、5年生存率(診断から5年後に生存している人の割合)が95%を超えるがんでもあります。大腸がんを早期に発見し、治療によって完治に近い状態に持っていくためには、定期的に大腸がん検診を受けることが重要です。
職場や自治体の健康診断では一般的に、便潜血検査が実施されています。便潜血検査は、便の中に血液が混ざっていないかどうかを調べる検査で、大腸がんのスクリーニング(ふるい分け)検査としての意味合いが大きいものです。便潜血検査を毎年受けることで、大腸がんの見落としのリスクが低減でき、大腸がんによる死亡も約60%減少するという報告(*1)があります。
ただし、便潜血検査は万能ではありません。この検査が得意とするのは、便に混ざるごくわずかな血液を検出し、ポリープやがんなどによる消化管からの出血の有無を調べることです。しかし、大腸がんの中には出血しにくいタイプもあり、そうしたがんの場合は、便潜血検査をすり抜けてしまいます。また、小腸に近い上行結腸や横行結腸にできるがんは、肛門までの距離が長いので、出血していても便が排出されるまでに血液成分が分解されてしまい、検出できないこともあります。
そうした見落としのリスクを踏まえると、大腸内視鏡検査を受けることの意義を理解していただけると思います。
