健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事。では、具体的にどうすれば、腸を元気にして、健康“腸”寿を実現できるのでしょうか? この連載では、これまで約4万人の腸を診てきた腸のエキスパートであり、腸に関する数多くの著書を手掛ける消化器内科医の松生恒夫さんが、腸を元気にして長生きするための食事や生活の秘訣を、エビデンス(科学的根拠)に照らしながら紹介していきます。

「腸内環境」――この言葉を近年、よく見聞きするようになったと思いませんか。健康に対する意識の高い日経Goodayの読者の皆さんなら、「健康で長生きするためには、腸内環境を整えることが大事だ」という話を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、メディアがこぞって取り上げる流行りの健康法や口コミで伝えられる情報には、エビデンス(科学的根拠)が不明確なものや、極端すぎてかえって悪い影響を与えかねないものも散見されます。
腸の専門医である私のクリニックには、内科・胃腸科、漢方外来、便秘外来があり、胃や腸の不調を訴える人や、重症の便秘に悩む人が多く受診されます。そうした患者さんたちに、普段の食事や生活について聞いてみると、「腸内環境を整えるために、朝食では必ずヨーグルトを食べています」「食物繊維を取るために、野菜サラダをたくさん食べています」といった答えが返ってきます。こうした誤った知識や不十分な情報による思い込みが、不調の原因になっている人が多いと感じます。
「ちょっと待って。ヨーグルトは腸内環境を整えてくれる食べ物のはずでは?」
「野菜サラダをたくさん食べることが、なぜいけないの?」
…そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、ヨーグルトに含まれる乳酸菌には整腸作用があり、腸内の善玉菌を増やす働きがあることが知られています。野菜に含まれる食物繊維も便通の改善に有効です。ただ、だからといって、やみくもにたくさん食べればいいというわけではありません。その人の腸の状態や食べ方によっては、あまり効果がないばかりか、症状が悪化したり、腸以外の不調を招いたりすることもあります。
では、どうすればいいのか。それは、この連載が進む中で、詳しくお話ししていきましょう。そして、腸に関する誤った知識や情報をアップデートして、読者の皆さんの腸を元気にすることに役立てればうれしく思います。
「腸内環境」=「腸内フローラ」ではない
連載第1回目となる今回は、今、日本人に増えている大腸や小腸の病気とその背景についてお話ししていきます。
私は腸を専門とする消化器内科医として、大学病院や大腸肛門疾患の専門病院に勤務した後、2004年に東京都立川市に「松生クリニック」を開業しました。これまで約4万人以上の患者さんの腸を診てきた中で実感するのは、日本人の腸内環境が悪化していること。そして、腸内環境悪化の影響と思われる、小腸や大腸の病気が増えていることです。