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がんになっても働きたい

がん治療の副作用を改善 鍵は「頑張りすぎない運動」

慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室教授 辻哲也さん(下)

 福島恵美=ライター

運動習慣ががんの死亡率を減らす報告も

辻先生は、一般社団法人キャンサーフィットネスの顧問を務められています。がん患者やがんサバイバー(がん経験者)を対象に、フィットネス教室を行っている団体ですが、この活動への思いを教えてください。

 キャンサーフィットネスの代表理事・広瀬真奈美さんとは、講演会でご一緒したときに知り合い、運動を通してがん患者さんを支援するのは大事な取り組みだと思いました。この活動が多くの人に広まるといいなという思いがあり、スタッフからの相談に応じたり、患者さん向けの講座で講義をしたり、団体のウェブサイトをチェックしたりして参加しています。

 2020年12月からは会員制のオンラインサロンが始まりました。10分程の運動の動画が毎日のように公開され、後から動画を見ることもできます。コロナ禍で直接スタジオに行くことが難しい中、オンラインだといろいろな地域の方が参加できるので、副次的な効果が生まれてとてもよかったと思っています。がんサバイバーの方々は、再発予防の観点からも運動が勧められているので、運動の啓発普及をしていくこともとても大事だと考えます。

がんサバイバーの中でも、特に乳がんになった方は運動した方がよい、と聞いたことがあります。

 乳がんが中心ですが、運動習慣のある身体活動が高い方と、運動習慣がない方を比べた大規模研究があります(*2)。がんによる死亡率は、身体活動が高いほうが低く、乳がんだけでなく大腸がん、前立腺がん、脳腫瘍でも同じように報告されています。その明確なメカニズムは人では分かっていませんが、動物実験では腫瘍のあるラットに運動させると腫瘍が縮小することが分かっています。運動することで免疫が上がったり、体にダメージを受けやすい酸化ストレスが減ったりするからではないかと言われています。ですから、がんサバイバーの方は、生涯にわたって運動習慣を持つことが推奨されているのです。

運動したほうが体にいいと分かっていても、なかなか習慣にならない人は、私を含めて少なくないと思います。そのような人たちにアドバイスをお願いします。

 運動に限らず減量など、何かを継続して行うには、少し物足りないくらいのレベルで、毎日コツコツ続けるのがいいと思います。三日坊主になる人は、だいたい最初に頑張りすぎてしまいます。活動量計やスマートフォンの万歩計、ノートでもいいので記録を付けると、後から見返したときに、これだけ運動したと励みになります。家族や仲間と一緒に運動するのも、怠けにくくなる方法の一つです。運動の実際の効果は、2カ月から3カ月で現れてきますので、少し長い目でみてください(*3)。

*2 J Natl Cancer Inst. 2012 Jun 6; 104(11): 815-840.
*3 公益社団法人日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会編『がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版』金原出版,2019.

仕事をする上で大事な体力の回復

がんのリハビリをけん引してこられた辻先生が、がんになっても働きやすい社会にしていくためには、どのようなことが必要だと思われますか。

 患者さんとしては、運動を習慣づけることで体力がつき、仕事復帰がしやすくなると思います。がん患者さん約4000人を対象にした、仕事に関する悩みのアンケート調査(*4)では、1位が「体力の低下」、2位が「病気の症状や治療による副作用や後遺症による症状」と、リハビリに関わるところがとても多いのです。体力を回復するため、治療中からの体力づくりが一番大事だと考えています。がんの治療による副作用や後遺症には、肩が上がりにくい、手足がしびれるなどいろいろですが、運動することで改善するものもあります。また、細かい手の動きができないのであれば、自助具を使う方法もあります。リハビリ科のある病院では、そのようなサポートができますから、相談してもらうといいと思います。

 職場では、患者さんが体力の低下や副作用、後遺症で悩んでいることを共有し、環境面で配慮することが大切です。例えば、リンパ節を切除することでリンパの流れが滞って足や手などがむくむリンパ浮腫の患者さんは、ずっと座り続ける仕事はつらいものです。配置転換などをして仕事が継続できるように、主治医と職場の産業医や上司らが話し合える関係をつくることも重要だと思います。

最後に読者にこれだけは伝えておきたい、ということはありますでしょうか。

 私が考えた「がんのリハビリ5カ条」ですね。今回のまとめとしてこの5つをお伝えしたいと思います。

「がんのリハビリ5カ条」

1.

がんの進行や治療により身体的・心理的なダメージを受けても、「がんになったのだから仕方ない」とあきらめないようにしましょう

2.

がんと診断された直後から、リハビリ科スタッフのサポートを積極的にうけましょう

3.

手術前と手術後は早期からリハビリを受けて、合併症を防ぎ、後遺症を軽減するようにしましょう

4.

薬物療法や放射線療法による体力低下・副作用の改善、症状軽減、生活の質(QOL:Quality of Life)の向上にもリハビリは有効です

5.

積極的な治療ができなくなった時期にも、リハビリは症状緩和、日常生活支援、QOLの向上に有効です

辻哲也(つじ てつや)さん 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室教授/慶應義塾大学病院腫瘍センターリハビリテーション部門部門長/日本リハビリテーション医学会専門医/日本リハビリテーション医学会指導責任者/日本臨床神経生理学会認定医
辻哲也(つじ てつや)さん 1990年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部研修医。1998年同大学助手。2000年ロンドン大学付属国立神経研究所リサーチフェロー。2002年静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科部長。2005年慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室専任講師。2012年同准教授。主な著書に「ホスピス緩和ケア白書2021」(青海社)、「がんのリハビリテーションマニュアル」(医学書院)、「がんのリハビリテーションQ&A」(中外医学社)、「癌(がん)のリハビリテーション」(金原出版)などがある。

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