「風邪は抗生物質で治る」は間違い 薬の効かない体になることも?
抗生物質信仰NGルール
結城未来=健康ジャーナリスト
ウイルスと細菌の違い
- ウイルス
- 大きさは0.0001ミリメートル(0.1μm)程度(小さいものだと、ノロウイルスが0.04μm)。細菌の約10分の1~100分の1。自分では細胞を持たず、内部に遺伝子を持っただけの単純構造の微生物。他の細胞に入り込んで生存する。単独では増殖できないが、一度細胞に入りこむと、自分のコピーを増やして細胞を破裂させては他の細胞に侵入する。繰り返しコピーを作って増殖していく。新型コロナウイルス、インフルエンザ、風邪、ノロウイルス、風疹などがある。
- 細菌
- 大きさは0.001ミリメートル(1μm)程度。細胞を持ち、自己複製能力を持つ微生物。納豆菌や乳酸菌など体内で役立つ菌、人体の皮膚や腸内に住みついて環境を保つ菌まで種類は豊富。病気を起こす細菌には、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、結核菌などがある。

抗生物質をムダに使うと体内でクスリが効かない細菌が増える。

――迎教授「風邪のシーズンになると、『風邪を引いたから抗生物質が欲しい』と訴える患者さんに、私も出会うことが少なくありません。怖いのは、こういう誤った薬の飲用で体内に『薬剤耐性菌』が増えてしまうということです」
抗生物質が効かない、あるいは効きにくくなった細菌が「薬剤耐性菌」だ。本来、体内ではさまざまな菌がバランスをとりながら生活をしている。ところが、抗生物質を乱用してしまうと体に必要な菌まで死んでしまい、生存のために変異し薬が効かなくなる薬剤耐性菌が増加。つまり「薬の効きにくい体」になってしまうのだ。すると、細菌による感染症治療はもちろん、手術などでの感染予防を困難にするなど、さまざまなリスクを招くことになるのだという。
「必要なときにだけ使う」ことが大事
――迎教授「今は、『抗生物質を無駄に使うな』という時代。世界中で深刻な問題になっていて、国を挙げて警告をアピールしています」
2019年4月、国連は抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌が世界的に増加し危機的状況にあるとして各国へ対策勧告。実際、日本でも2017年に国内で「薬剤耐性菌」によって8000人以上が死亡したとの推計もある(国立国際医療研究センター病院プレスリリース)

――迎教授「ひとつの薬が効かなくなったので別の薬を開発しても、これもまた効かなくなり……と、医療界での耐性菌対策はイタチごっこ状態。菌が近くの菌に情報を与えて耐性菌が広がることもあります。いつの間にか体内に『耐性菌』が存在してしまったために、初めての感染治療で使ったことのない抗生物質でも効かないという困ったケースが出てきているのです」
国立国際医療研究センター病院「抗菌薬意識調査レポート2020」によると、「『抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける』は間違いである」の正解者は18.1%。「『抗菌薬・抗生物質は風邪に効果がある』かどうか」についての回答も、正解が25.3%、間違えた回答が34.3%と正解を上回った。
――迎教授「本当に必要なときに抗生物質を効かせるためには、必要なときにだけ使うことがとても大切。まずは正しい知識を持っていただきたいですね」