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ストレス解消のルール

ドライアイや脳の働きにも影響! 知られざる「まばたき」の役割

意外に多い、不完全なまばたき

 結城未来=健康ジャーナリスト

「まばたき」に注目したことはあるだろうか。まばたきが多ければ、神経質な印象を持たれたり、焦燥感を感じさせることがあるだろう。逆に、まばたきもせずに会話をすれば、相手に無言のプレッシャーを与えることもある。心理面で注目されがちな「まばたき」だが、「まばたきの仕方」が疲れ目やストレス、さらには集中力にも大いに関係があることが分かってきた。慶應義塾大学医学部特任准教授で、おおたけ眼科つきみ野医院(神奈川県大和市)の綾木雅彦院長を、健康ジャーナリストの結城未来が取材。その話から、仕事の効率とまばたきの関係を明らかにした。

「まばたき」の仕方がドライアイやストレスと実は関係があるってご存じでしたか?写真はイメージ=(c)racorn-123RF

 きっかけは綾木院長の一言だった。

――綾木院長「結城さんは、まばたきがちゃんとできていませんね」

 意外なところを指摘されて驚いた。私は『照明を変えれば目がよくなる』という拙書もあるだけに、目の健康には人一倍気を使っているつもりだったからだ。当然、目を休ませるために、まばたきも意識していたつもりだ。

――綾木院長「正確に言うと、まばたきはしているのですが、不完全なのです。まぶたが完全に閉じていないので、こちらから見ると、まぶたを下ろしてもスキマから黒目が見えるんです」

 通常、まぶたが閉じると同時に目玉は上へ上がるので、目は白目になっているものらしい。でも、私の場合はまぶたが閉じ切っていないので、残った黒目が見えているそうなのだ。

 まばたきをしているのに、ちゃんとできていなかったのには気づいていなかったし、驚き以外の何物でもない。そもそも、「まばたきがちゃんとできているかどうか」ということを意識している人はそう多くはないだろう。

――綾木院長「結城さんに限らず、まばたきがちゃんとできていない人は多いですよ。まばたきをしても、まぶたが8割ほどしか閉じていない人をよく見かけます。患者さんには『ちゃんとまぶたを下ろして目を閉じてください』と指導していますが、本人は言われなければ分からないようですね」

意外に知らない「まばたき」の役割

 なぜ、まぶたを完全に閉じてまばたきをしなければいけないのだろう?

――綾木院長「まばたきは、黒目の汚れをとる、いわば『ワイパー』なのです。まぶたをしっかりと閉じれば、眼球は上転するので黒目も上に上がり、まぶたが開くと眼球は下がる。こうやってまばたきのたびに眼球を拭き上げています。『角膜』にあたる黒目部分は、カメラでいえば『レンズ』。眼球に光を取り入れ、水晶体とともにピント調節を行う大切な役割を担っています。ただ、常に外気にさらされているため、ゴミが飛び込みがちです。まつげ、毛髪の切れ端、繊維クズが最も多く、羽虫、小枝、もみがらや葉っぱなど、目に入るゴミは多種多様。正常にまばたきができない人は黒目をキレイにできず、目に入ったゴミを取り除けないため眼球は傷つき、目の病気も招きやすくなるのです」

 そういえば、目がゴロゴロする時には、盛んにまばたきをする。

――綾木院長「目のゴミの大部分は目薬などで洗い流さなくても、しっかりと大きくまばたきをすれば、取り除けるはずです」

原画=(c)Peter Lamb-123RF

 試しに、目をキツく閉じてみた。確かに、目の表面の角膜が掃除されるせいか、気持ちが良い。少し目が潤うような感覚もある。

――綾木院長「まばたきには涙を循環させる役割もありますから、そう感じるのでしょうね。まばたきをすると、上まぶたの内側にある涙腺から涙が出てきて目の表面を潤し、目頭の内側にある涙点から鼻へ流れ出るという涙の循環がスムーズに行われます。また、乾いたところと濡れたところのムラがないように、均一に目の表面を潤す効果もあるので、ドライアイ予防にもなります

ドライアイだと仕事の効率が低下!?

 逆に、まばたきができていなければ目が乾きがちになり、傷つきやすく痛みが出るなど、見えづらくなるという。「まばたき」は、目の表面を守るために大切な役割を担っているのだ。私自身、ちゃんとまばたきができていなかったせいか、目がしみて痛みを感じることがある。

――綾木院長「まばたきが完全にできていない人は目が傷つきがちなので、結城さんのように目の痛みを訴える人も少なくありません。角膜は、知覚神経の塊。視力を守るために、異常があると分かるように痛覚が集中している敏感な部位です。この角膜のメンテナンスをする『まばたき』は、疲れ目やドライアイ防止にとても大切なのです。目表面の疾患分野についての研究・教育などを推進する、米国ボストンに拠点を置く国際的NPO組織TFOS(Tear Film & Ocular Surface Society)では、一般の人にまばたきの大切さを啓発するために歌を作っているくらいです。『みんな、恥ずかしがらずにまつげをぶつけてまばたきをしよう』といった内容です(*1)」

 眼科医たちがこうした歌を作るくらい、目の健康にまばたきは重要らしい。確かに、目の痛みは大きなストレスを招き、仕事の効率を落とす要因になる。

――綾木院長「実際、ドライアイになると『気が散りやすい』ということは脳波を使った私の研究でも明らかです。まばたきを我慢してドライアイの状態にすると、集中力に由来する脳波成分が減少。『普段からドライアイ症状が強い人ほど、集中力が低下する』という研究結果が出ています」

 まばたきをすることで目の健康を保つことは、仕事の効率にも関わってくるようだ。

――綾木院長「さらに最新の研究では、まばたきが脳の情報処理に直接関わることも分かってきました。まばたきは、目に紫外線などの有害な光が入ることを防ぐだけでなく、見続ける状態から一時解放することで、目を休めると同時に脳の緊張も解きます。こうして、まばたきで目を閉じている0.3秒ほどの間に脳は情報をとりまとめ、目を開いた後に次の情報処理にとりかかるのです。まばたきは目を拭き掃除するだけでなく、こまめに目や脳を休めて集中力を回復させ、情報処理を助けていることになります」

 まばたきは一瞬のアクションにすぎないが、この極めて短い時間に、目と脳の機能を回復させるカギを握っているというのだから、体の機能の奥深さには改めて頭が下がる。

――綾木院長「私たちが起きている時間の10%はまばたきで目を閉じているのですが、それによって『見えない』『暗い』というような不安な気持ちになることはありません。むしろ、まばたきはストレスを減らし、脳の機能を向上させる自然な営みであると理解できます」

 ここまで聞くと、意識してまぶたをしっかりと閉じなければいけないという気になる。

――綾木院長「まばたきは目薬と同じくらい大切です。実際には『まばたきなんて、なかなかできない、やるヒマがない』と、難しがる患者さんが意外に多いんですけれどね(苦笑)」

目を閉じられない原因は?

 目をしっかりと閉じられない原因は何だろうか。

――綾木院長「甲状腺の疾病や目の周囲のマヒでも目を閉じにくくなりますが、大抵の場合、『クセ』ですね。特に目が大きい人は目を閉じにくいので、浅く閉じるクセがついてしまっている人が多いですね」

 「健全なまばたき」に変えるコツはあるのだろうか。

下までしっかりまぶたを閉じる、これが大事だ。写真はイメージ=(c)olgaos-123RF

――綾木医師「下までまぶたが落ちている感覚を覚えることが大切です。ちゃんと目を閉じられていれば視界は真っ黒になるはずですよ。意識的にゆっくり長めに目を閉じる練習をしてみてください」

 歯磨き中やトイレのタイミングなど、生活の中で自然に取り入れるのはどうだろうか。

――綾木院長「何かのついでにやるのはよいですね。まばたきは副作用もありませんし、お金もかからず、人に迷惑をかけることもありません。いつでも実行できるものですから、意識してまばたきをしてみてください」

 たかが「まばたき」、されど「まばたき」。無意識に行ってきた「まばたき」によって目の痛みストレスを引き起こし、仕事の効率を下げていたのなら、由々しき問題だ。実際、私自身も意識をして、目をしっかりと閉じるまばたきに変えてから、目が楽になったような気がする。今からでも始められるストレス解消法、ぜひ、お試しあれ。

<「まばたき」を味方につけて、目と脳のストレスを減らすためのルール>

(1)

目をしっかりと閉じてまばたきをしているかを意識せよ

(2)

まばたきは、角膜を拭き上げる大切なメンテナンス機能だと心得よ

(3)

まばたきがちゃんとできていないと、集中力の低下を招く可能性もあると心得よ

(4)

まばたきは、脳の緊張を解いて処理能力を高める大切な役割もあると心得よ

(5)

意識してまばたきを行うタイミングを生活に取り入れよ


綾木雅彦(あやき まさひこ)さん
おおたけ眼科つきみ野医院院長、慶應義塾大学医学部眼科学教室特任准教授
綾木雅彦(あやき まさひこ)さん 1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学医学部留学。昭和大学医学部眼科准教授、国立病院機構埼玉病院眼科医長、国際医療福祉大学三田病院眼科准教授などを経て、現職。医学博士(慶應義塾大学)、日本眼科学会認定眼科専門医・指導医、日本抗加齢医学会専門医・評議員、睡眠健康指導士、アメリカ眼科アカデミー国際会員。
結城未来(ゆうき みく)
エッセイスト・フリーアナウンサー
結城未来(ゆうき みく) テレビ番組の司会やレポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーター、健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動を実施している。
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