つらい体験は言葉にしてみる ストレス和らぐ心の整理術
ストレスと上手に付き合うためのヒント
結城未来=健康ジャーナリスト
前回記事「ストレスはないより多少あるほうがいい じつは心の健康に不可欠」で、「ストレスの正体」は必ずしも「悪」ではない、という話を紹介した。適度な緊張感は、ある意味「生きる幸せを感じさせるもの」でもあるのだ。今回は、具体的に「ストレスと上手に付き合うためのヒント」を健康ジャーナリストの結城未来が日本大学医学部精神医学系・内山真主任教授と考えた。

まず、自分の抱えているストレスがどういうものなのかをチェックしよう。
【 A:決断を前に葛藤して苦しんでいるなら…… 】
――内山教授「二者択一の状況で決断を下す際に、もう一つの可能性を諦めきれないことも多いのではないかと思います。こういう葛藤状況が大きなストレスをもたらします」
例えば、どういう場面だろうか?

――内山教授「大学の授業では学生に考えてもらうため、身近な話を例に出しています。試験の日に好きな洋楽のミュージシャンの来日コンサートがぶつかってしまったとしましょう。すると、『どうしても聴きに行きたい、でも成績は落としたくない』という葛藤状況が生まれます」
生きる上で、こういった選択をしなければならない場面はありがちだ。でも結局、体は一つしかないのだから、どちらかを選択するしか手立てはないように思う。
――内山教授「そうですね。ただ、その際に『気持ちを整理する』作業がとても大切なのです。まず、自分にとっての重要度をランク付けします。『コンサートが何よりも大切だから、試験の結果はどうなってもよい』というならコンサートに行くし、『成績や進級には代えられない』のであれば、コンサートを諦める。こうした白か黒かの明確な選択が自然にできれば簡単です。
なるほど。「仕方ないからこうなった」ではなく、「決断の経緯や理由」を明らかにすることは大切らしい。
――内山教授「この『気持ちの整理』がきちんとできていないと、私たちは諦めたことに関してネガティブな気持ちをひきずり、後悔してしまうものです。試験が意外に簡単だったら、『コンサートに行ったほうがよかったかなぁ』と思うかもしれませんし、成績が悪かったら、『やっぱり遊びに行かずに勉強しておけばよかった』と後悔するわけです」
……確かに私も、後悔の連続だ。
――内山教授「白黒ハッキリつけるというよりは、灰色の決断、それも『あまり暗くない灰色の決断』を見つけることができたら、気持ちも軽くなると思います。
例えばこの場合、『勉強不足だから遊びに行かない方が安全だ』と感じるなら、『コンサートには次の来日の際に行くことにしよう』と、楽しみを残しておくのも一つのやり方です。また、もう少しアクティブに、『来日は当分なさそうだから、別の機会に3日間休んで海外に行って本場でコンサートを聴こう』と、切符の安い時期のコンサートの日程を調べる。これなら、『現状から逃げて妥協した』ことにはならないので、気持ちもスッキリしてきます。しかも、そうやって前向きに動いているうちに、『そこまでしなくてもよいかな』と考えるようになるかもしれません。つまり、少しずつ具体的な行動を起こすうちに、思いもよらない心の整理ができたりもします」
なるほど。どうしても決断せざるを得ないのなら、心残りになりそうな事柄に対して希望を残しておけば前向きに決断できそうだし、葛藤によるストレスも生じにくい。これは、ビジネスでも大いに生かせそうだ。
――内山教授「そうですね。ビジネスでも同様なことは起こりがちです。その際には少し立ち止まって、心の中を整理する時間をとってみたらよいと思います。白黒をつけなければいけない葛藤状態では、最終的に帰結する行動は2つに1つです。しかし、『仕方なく一つの選択肢を選ばざるを得なかった』と感じるのと、『気持ちを整理した上で決断した』と感じるのとでは、ずいぶん違うと思います。その上、『チャンスに対して前向きに考える戦略』を立てられるようになると、ピンチのたびに成長していくことにもつながります」
「ピンチ」を単なる苦境とせず、むしろ自己成長の良い機会だと考えられれば、ピンチに直面した際の苦しいストレスも軽減できそうだ。
このように、「葛藤する」ことによるストレスもあれば、起こったことに対して気持ちの整理がつかずに苦しむストレスもあるだろう。
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