怒りをまき散らすあの人のパワハラ、じつは「耳の老化」が原因かも
聞こえないストレスと、「話が下手」と思われるストレスを解消するルール
結城未来=健康ジャーナリスト
――八木医師「うるさく思えないのは、同じ音量が続いているわけではないからです。問題は、電車内の音というよりも、電車内で聴く『イヤホン越しの音』ですね」
通勤時などの移動時間を使ってヘッドホンで音楽などを楽しんでいる人も少なくないだろう。大きい音を立てる電車の騒音に負けじと85デシベル以上の強い音を長時間聞く生活を続けていると、早いうちから聴力は落ちやすいという。

――八木医師「イヤホンから周囲に音が漏れる場合、イヤホンから出ている音は85デシベルを超えていると思ってください」
周囲には聞こえない程度の音量が、耳の劣化の予防と周囲に対するマナーにつながる。この目安は、ぜひ覚えておきたい。
――八木医師「大きい音などで傷めてしまった内耳は治せませんから、若い頃からの予防はとても大切です」
え!? 一度傷めてしまうと、治せないとは!? これは初耳!?……というか、意外と気づかれていない点ではあるだけに、気を付けなければいけない。
他にも、「耳の老化」が早い人に共通する点、陥りがちな間違いなどはないのだろうか?
――八木医師「実は、患者さんに共通する点があるのです。肥満体形、糖尿病、高血圧などに当てはまる患者さんは、若くても平均値よりも『聴力が悪い』人が多いという印象があります」
カロリー制限をすると、制限をしないよりも年をとった時に聴力が良かったという報告も、動物実験レベルであるそうだ(*1)。
――八木医師「ハッキリとしたデータはありませんが、耳には細い血管が走っていますので、生活習慣病や過度なストレスも、耳の血管を詰まらせて耳の機能を落とす一因になるのではないでしょうか」
気づいた時から生活習慣病の治療やストレス解消をすることは、耳の老化を遅らせることにもつながりそうだ。
誰にでも聞こえる話し方は?
それにしても、「聞こえる人」と「聞こえにくい人」が混在するのが、「職場」や人の集まる「コミュニティー」だ。ストレスなくスムーズにコミュニケーションをとるには、「誰にでも聞こえる話し方」をする必要がありそうだ。そのためのルールを教わった。
- (1)「発音はハッキリと。モゴモゴした話し方はNG」
- ⇒伝わりにくい話し方は、聴力の良しあしに限らず、印象が悪い。上手に話せなくても、一生懸命に伝えようとする姿勢なら好感度も上がる。
- (2)「『子音』を意識した話し方をしよう」
- ⇒「聞き間違いは、母音では少なく子音で生じることが多い」(八木医師)。例えば、「バ」を「ビ」と間違えることはないが、「バ(ba)」を「ダ(da)」や「ガ(ga)」など、同じ母音の違う子音に聞き間違えることが多い。
- (3)「『高音』は『聞こえづらい音』と思おう」
- ⇒「加齢とともに、高音から聞こえづらくなってきます。体温計の電子音、さらに携帯やスマートフォンの着信音でも高い音が混じっていると、聞き逃すことがあるくらいです」(八木医師)。会話の中でも急に高い音が入ると、聞き逃すことがあるという。
- (4)「早口はNG。ゆっくりめに話そう」
- ⇒「耳から入った音の振動は電気信号に変換されて脳に伝わります。加齢とともにこの情報を処理するスピードも遅くなるので、早口では伝わりにくくなります」(八木医師)
- (5)「大声での会話は逆効果」
- ⇒聞こえにくい人に対しては、「大声で話せば伝わるだろう」と誤解しがちだ。しかし、「加齢とともに、聞きやすい音量の幅は狭くなってきます。小さい音は小さくしか聞こえませんが、大きい音は一定レベルから急に過度に不快な音として伝わります」(八木医師)。普段発している声よりも少しだけ大きな声で話すくらいにとどめよう。

大勢の人が集まる会議や営業の場など、あらゆるシーンで「聞こえの悪い人」と会話をする可能性はある。「言葉をきちんと伝える」ためにこのルールを守るように心がければ、好感度も上がることだろう。
一方、「聞こえ方を改善する」環境面での取り組みもあるようだ。
そこで、「聞こえ方」をフォローする「吸音パネル」の素材も手掛けているクラレクラフレックスの販売担当・栗原大輔さんに話を聞いてみた。
聞こえが悪い会議室、「残響音」が原因?
そもそも「吸音」というと、うるさい音をカットするというイメージがある。どうも、そうでもないらしい。
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