「利便性」だけじゃない! オンライン診療の本当の実力
行動変容を促し、生活習慣病を改善
荒川直樹=科学ライター
コンサル会社に勤めた経歴を生かし、医療界の思考法を変えたい
武藤さんは循環器内科医として活躍された後、米国に本社を持つコンサルティング会社に勤務されています。どんな理由があったのですか。

武藤 まず、医師としていろいろな経験を積むなかで、医療の世界にどっぷり使っていると、他のことが見えなくなってしまうと危惧していました。世の中がどんどん変わっていく中で、他の産業から学ぶことがたくさんあるはずですし、医療界のなかで固まってしまった思考法を変革したい。そのためには一度「外」に出る必要があると考えました。それでマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして勤務したのです。
最近では医師の方が30代、40代で起業される人も増えてきました。医療界の制度疲労とともに、医師自体も疲労困憊(こんぱい)している状況を変えたいと考えている人がたくさんいるようですね。
武藤 そうですね。優秀な人が医療界以外でスキルを学ぶというケースも増えていると思います。これから医療の世界は大きく変わっていくのだと感じます。
オンライン診療で生涯現役社会の実現に
ところで、安倍首相は「生涯現役社会」の実現を目標に掲げています。年金支給年齢を引き上げたいという思惑もあるのかもしれませんが、担われる人ではなくて、担う人を増やそうということだと思います。オンライン診療が広まっていくことで、人々の働く期間を増やせるのでしょうか。
武藤 増えていくと思います。経済産業省の会議の委員になっていますが、担い手をどう増やしていくかは、非常に重要な課題であるという議論がなされています。オンライン診療ができることの一つは、生活習慣病に起因する脳血管、心臓疾患で働けなくなることを未然に防ぐ取り組みで、具体的には予防、早期発見、早期治療を実現するものです。これはオンライン診療からオンライン予防に広げる仕組みともいえるでしょう。
生活習慣病は30代から始まる。だったら早めにアプローチした方がいいのではないかというわけですね。しかし、現状は悪くなってから皆気づく。後悔するわけです。
武藤 医師として、脳梗塞などになってから後悔している本人や家族に対して、もっと早く気づいてあげられればと思います。しかしこれは決して本人だけの問題ではないのです。本人が気づく機会、行動変容を促す機会がないわけで、その機会を提供するような仕組みを作っていきたい。その結果として産業の担い手も増えるわけです。気の長い話になりますが、そこにも寄与できればと思います。
インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長

日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ所長
