日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様
日経Gooday TOP  > 医療・予防  > 未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線  > 「利便性」だけじゃない! オンライン診療の本当の実力  > 3ページ目
印刷

未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

「利便性」だけじゃない! オンライン診療の本当の実力

行動変容を促し、生活習慣病を改善

 荒川直樹=科学ライター

気づかぬうちに患者の行動を変えるNUDGEがヒント

なるほど、本質的なことが少し見えてきました。オンライン診療というと一部の報道では「忙しいときでも医師の診断を受けられる」「すぐ薬を処方してもらえる」といった利便性が強調されました。確かに、便利になることはいいことですが、それだけではなく、医師と患者さんとの関係を強化することで、現在の医療が抱えている問題を解決することにつながるのですね。オンライン診療に期待することとして「患者さんの行動変容を促す」がありましたが、そのコツのようなものはありますか。

武藤  行動経済学のアプローチ方法であるNUDGE(ナッジ)という言葉に、そのヒントの一つがあると思っています。これは、人間は決められたことをなかなか守れない弱いものだという前提に立って、行動変容を促す仕組みといえるでしょう。

NUDGEについて、もう少し詳しく教えてください。

武藤  もともとは「腕で軽くつつく」という意味の英語です。ノーベル経済学賞を受賞された行動経済学者のリチャード・セイラー氏が提唱した概念です。例えば、トイレの便器には小さな虫の絵が描かれたものがあります。無意識にそこにめがけてすることで、トイレが汚れなくなり、清掃の時間が8割減ったという報告があるのです。このように人間本来の性質・感情などに基づいて、気づかぬ間に人間の行動を変えていこうとするのがNUDGEです。「YaDoc」では、そうした手法も使って患者さんの行動変容を促そうと考えています。

オンライン診療は「個別化医療」の実現にもつながる

情報通信技術(ICT)を使って患者さん自身を変えていく。そのためには、医師は従来以上に患者さんと寄り添うことが必要です。通院と通院の間の患者さんの状況がすぐ医師に伝わったり、患者さんが困ったときにすぐ医師にアクセスできたりすることも重要です。

武藤  その通りです。その結果として、私たちが目指すのは患者さんをエンパワーメントすること。聞き慣れない言葉かもしれませんが、日常の健康管理について、患者さん自身から積極的になってもらうということです。いままでは医師から「きちんと薬を飲んでください」といわれて飲む。もちろん、それでかまわないのですが、日々のデータなどを医師と共有することで、患者さん自身が、どのような行動をしたらもっと健康でいられるかを考える力をつけてもらいたいのです。

 そして、こうしたICTの利用による情報の共有は、今後プレシジョンメディシンという個別化医療の実現にもつながると思っています。

個別化医療とは、具体的にどういうことですか。

武藤  例えば、高血圧症の患者さんが二人いて、同じ降圧剤を処方されたとします。体格も遺伝子も違うなかで、その薬が同等に効いているということは、考えにくいわけです。また、前日深酒をして酔いが残っている状態で服薬したときと、健康な状態で服薬したときとでも違うはずです。個別化された医療を進めるためには、個々の患者さんの詳細なデータをとることがスタートなのです。

オンライン診療の仕組みは、まさに新時代の医療を実現するためのインフラであるともいえますね。

武藤  今回、オンライン診療の保険収載が認められたということで、そのスタート地点に立てたことになります。また、オンライン診療と新しい医療の概念を組み合わせたものが、私たちが作り上げた「YaDoc」だったわけです。オンライン診療が患者さんの利便性を高めることも大事ですが、同時に「医療従事者の負担軽減」「患者さんをエンパワーメントすること」「個別化医療の実現」など、継続可能な制度設計につながらなければ、あまり意味がありません。私たちの取り組みがその「発火点」になっているとすれば、非常に大きな意味があると思っています。

「オンライン診療は、単に患者さんの利便性を高めるだけでなく、医療従事者の負担を軽減し、患者さん自身が生活習慣の改善に主体的に取り組むための支援ツールにもなります」。(写真:的野弘路)

オンライン診療の「効き目」を検証する

既に発火点から、医療を転換させる大きな「うねり」になっていると感じますね。最近では、糖尿病治療の現場では血糖値を24時間モニタリングする持続血糖測定器なども登場しています。そのデータをオンライン診療に取り込み、医師と患者さんが情報共有すれば、これまで以上に患者さんの行動変容につながる可能性もありますね。これからの動きは速いと思いますよ。

武藤  その動きを加速するために、いま私たちが考えているのは、オンライン診療自体に医学的効果があること、つまり、オンライン診療を導入することによってよりよい医療を実現できるということを、きちんと検証することです。

どういった検証が行われるのでしょうか。

武藤  ポイントは3つあると思っています。1つはクリニカルアウトカム。臨床的に結果がよかったということです。2つめは経済性で、オンライン診療の費用対効果を検証します。そして、3つめは「満足度」というべきもの。医師にとっては「楽になった」とか「情報が増えた」などがあり、患者さんでは「つらい思いをして通院せずに済んだ」「医師に自分の気持ちをもっと伝えられるようになった」とかがある。「満足度」はクリニカルアウトカムや経済性だけでは評価できない重要な検証項目といえます。

RELATED ARTICLES関連する記事

医療・予防カテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 早期発見、早期治療で治す「大腸がん」 適切な検査の受け方は?

    日本人のがんの中で、いまや罹患率1位となっている「大腸がん」。年間5万人以上が亡くなり、死亡率も肺がんに次いで高い。だがこのがんは、早期発見すれば治りやすいという特徴も持つ。本記事では、大腸がんの特徴や、早期発見のための検査の受け方、かかるリスクを下げる日常生活の心得などをまとめていく。

  • 放置は厳禁! 「脂肪肝」解消のコツ

    人間ドック受診者の3割以上が肝機能障害を指摘されるが、肝臓は「沈黙の臓器」だけあって、数値がちょっと悪くなったくらいでは症状は現れない。「とりあえず今は大丈夫だから…」と放置している人も多いかもしれないが、甘く見てはいけない。肝機能障害の主たる原因である「脂肪肝」は、悪性のタイプでは肝臓に炎症が起こり、肝臓の細胞が破壊され、やがて肝硬変や肝がんへと進んでいく。誰もが正しく知っておくべき「脂肪肝の新常識」をまとめた。

  • 肩の痛みから高血圧まで、「姿勢の崩れ」は様々な不調の原因に

    「姿勢」が、肩こりや腰痛の原因になることを知っている人は多いだろうが、足の痛みや高血圧、誤嚥性肺炎まで、全身の様々な不調・疾患の原因になることをご存じの方は少ないかもしれない。これまでに掲載した人気記事から、姿勢と様々な病気・不調との関係について知っておきたいことをコンパクトにまとめた。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Gooday新型コロナ特設

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2021 Nikkei Inc. All rights reserved.