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未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

医師が処方する「治療アプリ」が登場間近

まずは禁煙治療で実用化、米国には「新薬に匹敵する効果もある治療アプリ」も

 荒川直樹=科学ライター

医療分野の満たされないニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)についての治療分野の革新に焦点を当てていく本連載。今回は、スマホのアプリが、医薬品や医療機器と同様に、医療効果を持つ「薬」となって処方される「治療アプリ」を取り上げる。既に臨床試験が実施中で、2019年にも承認されるとみられるのが、治療アプリの「CureApp禁煙」。開発を進めてきたキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師に話を聞いた(聞き手・企画:藤井省吾=日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ所長)。

キュア・アップ代表取締役で医師の佐竹晃太さん。医療とITを結びつける新ジャンル医療インフォマティクスを学び、修士号を取得。治療アプリの開発を進めてきた。(撮影:的野弘路)

 2018年9月4日の日本経済新聞第一面に掲載された、安倍晋三首相の発言を紹介した記事で、「生涯現役」という言葉が見出しになった。それを実現するには、人々がいつまでも健康で働ける必要がある。ヘルスケア分野で医薬品や医療機器の革新には目覚ましいものがあるが、それだけでは足りないものがある。それが食事改善、運動習慣、禁煙など患者自身が行う生活改善だ。医師による生活指導はあるが、通院と通院の間には医療機関と患者の接点がなく、患者のモチベーションを維持することが難しかったといえる。

 そこでキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師が挑戦しているのは、患者にスマートフォンのアプリを処方することで、通院と通院の間ずっと患者の生活改善をサポート。病気の改善につなげるという新たな治療法の開発だ。

まず、佐竹さんが、こうした「治療アプリ」の可能性に気づいたきっかけについて教えてください。

佐竹 私が「治療アプリ」という存在に出合ったのは、米国に留学したときでした。2013年、医療ITをアカデミックに研究する「医療インフォマティクス」を学ぶために、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に留学しました。そこで目を通した1本の論文によって、医療系テクノロジー企業「WellDoc」が開発したスマートフォンアプリ「BlueStar」の存在を知ったのです。

米国で先行する治療アプリ「BlueStar」は新薬に匹敵する効果も

どのようなアプリだったのですか。

佐竹 一言でいえば、糖尿病患者の行動変容を促すアプリです。患者は、日々の血糖値、食事の量、体重、運動量などのデータをスマートフォンに入力します。データはクラウドに保存され、ソフトウエアが患者の状態を診断。患者の状態に合った生活改善のガイダンスをスマートフォンに送ります。患者にとっては、今何をすべきかが明確に分かり、続けると食事・運動習慣など行動変容が起こるのです。

 論文に掲載されていた臨床成績も驚くべきものでした。糖尿病の重症度を表す検査データの一つにヘモグロビンA1c値があります。「BlueStar」を使った人と、使わなかった人とを比べると1.2も差がありました。内科医が見れば糖尿病の新薬と同じぐらいの効果が出ていることが分かります。一介の医師である私にとって、病気の治療法といえば「薬」か「医療機器」しか頭にありませんでしたが、そこにスマートフォンのアプリという第3の治療が登場したのです。

この第3の治療は、米国ではヘルスケアビジネスの一つとして成り立っているのでしょうか。

佐竹 「BlueStar」は、FDA(米国食品医薬品局)では医療機器のなかの「治療アプリ」として承認を得ています。保険会社が保険適用を認めており、ビジネスとしてはまずまずの立ち上がりを見せています。そして今、米国では糖尿病以外にもいくつかの医療用ソフトウエア事業が進められています。今後、医療の一分野として大きく成長すると期待しています。

「治療アプリ」は患者にとって心強い存在になりますが、入力データやアプリの評価項目を医師が常にチェックすることで、さまざまな慢性疾患の治療経過を「見える化」していくことにもつながりそうですね。

佐竹 医師にとって診察中の患者からは多くの情報が得られますが、通院と通院の間の期間は、患者がどういう生活をしているか、ブラックボックス状態でした。「治療アプリ」で得られる情報で、それが見える化していく。生活改善指導などより踏み込んだことが行えると思います。

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