医師が処方する「治療アプリ」が登場間近
まずは禁煙治療で実用化、米国には「新薬に匹敵する効果もある治療アプリ」も
荒川直樹=科学ライター
非アルコール性脂肪肝炎の治療アプリにも挑戦中
今、医療とICTが急接近しています。その一つが、パソコンやスマートフォンなどを通して、医師の診察を受ける「オンライン診療」です。2015年に解禁されたこの新しい診療に2018年の4月から、健康保険が適用されました。「治療アプリ」とオンライン診療との違いは何でしょうか。
佐竹 オンライン診療は、医師による診療をオンラインで行うものですが、「治療アプリ」は診療と診療の間の医療を担うものといえます。医療従事者の最大の目標は、患者の病気が良くなることです。「治療アプリ」は、ICTによって患者が良くなることを実証したものだといえます。
治療効果について明確なエビデンスがあることが「治療アプリ」の第一の特徴といえますね。米国では、糖尿病の「治療アプリ」が登場しているということですが、今後、どのような疾患に広がっていくのでしょうか。
佐竹 私たちが、ニコチン依存症の次に進めているのはNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の「治療アプリ」です。NASHは、放っておくと将来、肝硬変になる重要な病気であるにもかかわらず、有効な治療法・対策法がない。アンメット・メディカル・ニーズのある疾病です。NASHの「治療アプリ」開発のきっかけは、東京大学消化器内科から「こうした手法なら患者の役に立つのではないか」と提案されたことでした。
「NASH App」ですね。NASHの治療アプリの場合、通院と通院の間に患者に対してどのようなアプローチをするのですか。
佐竹 体脂肪の減少などの生活改善のプログラムが肝臓に特化した形で入っています。といっても一般的なダイエットアプリとは異なります。ダイエットアプリは、プログラムが終了するとリバウンドする傾向がありますが、「NASH App」では、認知行動療法を取り入れることでリバウンドが起きないようにしています。
認知行動療法の内容は、良い生活習慣をしているほうが自分として自然であるというように、考え方の変容を促すものです。例えば、治療を続けていると、酒を飲んだ後でラーメンを食べたとき、それに対して強い違和感を覚えるようになります。考え方が変わるのでリバウンドが起きないのです。
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