アトピー性皮膚炎の期待の新薬、根本的な治療になる可能性も
第2回 発症機序にピンポイントに作用、かゆみを抑えて症状の悪循環を解消
荒川直樹=科学ライター
医療分野の満たされないニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)についての治療分野の革新に焦点を当てていく本連載。前回に続き、アトピー性皮膚炎の治療に登場した10年ぶりの新薬が治療の現場に与えたインパクトに迫る。
ピンポイントに効いて、かゆみや不眠に悩む患者の運命を変える
ステロイド外用剤など標準治療で症状をコントロールできない一部のアトピー性皮膚炎に全身療法をプラスできる。それがアトピー性皮膚炎の10年ぶりの新薬として登場したデュピルマブ(商品名:デュピクセント、発売:サノフィ)の最大の特徴だ。今回は、発売元のサノフィに新しい治療薬のインパクトについて聞いた。
サノフィのコミュニケーション部マネジャーの田中康志氏は「デュピルマブによる治療を行った患者さんから、『かゆみが減った』『赤みが減った』『半袖が安心して着られるようになった』といった皮膚症状の改善だけでなく『眠れるようになった』という声も届いている。デュピルマブはアトピーによって制限されていた日常を取り戻す薬という期待を感じる」と話す。
アトピー性皮膚炎の人は、寝ている間もずっと皮膚をかいていて眠りが浅い。治療を行って熟睡できるようになることで「昼間の眠気が減った」「勉強、仕事の効率が良くなった」など大幅なQOL(生活の質)の改善につながっているという。

臨床試験(第1回参照)では副作用についても調べているが、プラセボ群と比較して頻度が高かった主な副作用は頭痛、アレルギー性結膜炎、注射部位反応(痛み、腫れなど)だったが、高いもので2%ほどだった。全身療法としての安全性は、ステロイドやシクロスポリンと比較して高いと考えられる。
皮膚の状態が改善し、外用剤の手間も減少
どのような患者がデュピルマブによる治療を受けられるのか。厚生労働省は2018年4月にデュピルマブの「最適使用推進ガイドライン」を発表しており、現在はその内容に沿った処方が行われている。例えば、治療対象となるのは通常の外用治療(ステロイド外用剤やタクロリムス軟膏)を一定期間(6カ月)行っても効果が不十分である場合。しかも強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ場合としており、症状の強さについてはEASIという皮疹のスコアが16以上(中等度)であるなど基準を細かく定めている。
そして使用上のポイントは「外用剤や保湿剤による十分な治療を行った上で、デュピルマブによる治療を加える」というもの。患者にとって治療上の手間は変わらないように思えるが、日本医科大学大学院医学研究科皮膚粘膜病態学分野大学院教授の佐伯秀久氏は「家庭で理想的な外用剤治療を行うには、それなりの負担が掛かります。デュピクセントが登場したことで、『塗る量を減らせる』『全身に塗っていたものが、皮疹があるところだけ塗る』『ステロイドのランクを落とせる』など外用剤を塗る負担も軽減されます」と評価する。
デュピルマブでの治療対象 (厚生労働省「最適使用推進ガイドライン」より) |
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デュピルマブ治療のメリット |
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