日経グッデイ

Dr.今村の「感染症ココがポイント!」

災害後の感染症対策、今後はノロやインフルにも警戒 

マスクは不可欠

 田村知子=ライター

2019年10月の台風と豪雨は、東日本を中心に甚大な被害をもたらした。災害後は衛生環境の悪化などから感染症の発生リスクが高まるといわれる。そこで特別編として、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長で、今回の災害を受け自身のツイッターでも「豪雨被災地での感染対策」に関する情報を発信し始めた今村顕史さんの話を基に、被災地における感染症対策を紹介する。被災地・避難所でのボランティアを計画している人もご覧いただきたい。

【ココがポイント!】

  • 被災直後としばらくたったあとでは、発生しやすい感染症が変わってくる
  • 家屋や土砂などの片付け作業では、ゴーグルやマスクで目・鼻・口を保護する
  • 廃材処理などを行う時は、破傷風予防のため厚底の靴・厚手の手袋を
  • これからの季節はノロウイルスとインフルエンザにも注意を

時間の経過とともに変わる感染症リスク

Q:災害後は衛生環境の悪化などから感染症の発生リスクが高まるといわれるが、どのような感染症に注意が必要か。

A:今回のような広域災害では、地域によって被害状況や被災後の生活環境などが異なる。そうした中では、それぞれの状況に応じてできる対策を行い、感染症の発生や拡大のリスクを減らしていくことが大切だ。

 まず知っておきたいのは、災害が発生した直後と、ある程度の時間が経過してからでは、発生しやすい感染症が変わっていくということだ。

 災害の直後は、死亡率の高い「破傷風」のほか、腎炎や肝炎を起こす「レプトスピラ症」、重症の肺炎を起こす「レジオネラ症」といった感染症への注意が必要だ。これらは主に、倒壊した家屋のがれきや流れ込んだ土砂などを処理する際に感染のリスクが高くなる。

 従って、片付け作業を行う際には、土壌の中などに潜む病原菌が体内に侵入したり、病原体に汚染された水や土壌と接触したりするのを防ぐために、皮膚に深い傷を負ったり、粉じんを吸い込んだりしないような対策を行う。

 例えば、できるだけ肌の露出を避けるように長袖長ズボンを着用する、厚手の手袋をつける、底の厚い靴を履く、目・鼻・口を保護するゴーグルやマスクを着用するなどだ。感染症から身を守るためには大切な対策となる。

 山に近い場所で作業する際にも、ダニによる被害予防のために、肌の露出は避けるようにしたい。

 土砂の処理や家の片付けなどが進んでくると、災害時の環境などによる感染症のリスクは徐々に低下し、食中毒やいわゆる風邪をはじめとする呼吸器の感染症など、一般的な流行感染症の延長での注意が必要になってくる。特にこれからはインフルエンザノロウイルスの流行期になるため、そちらへの注意も必要だ。

廃材処理などを行う時は厚底の靴・厚手の手袋を

Q:破傷風は死亡率が高いとのことだが、どんな病気なのか?

A:破傷風は破傷風菌がつくる神経毒素により引き起こされる感染症だ。破傷風菌は空気が嫌いで芽胞という殻の中に入った状態で土壌中に存在し、さびたクギを踏んだ時など、空気の少ない深い傷などで増殖して、強力な神経毒素を産生。潜伏期間(3~21日)の後に、開口障害、痙笑(けいしょう、ひきつり笑いのように見える状態)、後弓反張(えびぞり状態)、全身けいれん、呼吸筋まひなどを引き起こす。

 破傷風の予防のため、廃材処理などの作業時には、前述した通り、底の厚い靴、軍手などの厚手の手袋を着用し、深い傷を負わないようにすることが大切だ。また、こうしたリスクの高い場所でボランティアをする予定の人は、あらかじめ破傷風ワクチンを接種しておくことが推奨される。詳しくは国立感染症研究所のサイトの「被災地・避難所でボランティアを計画されている皆様の感染症予防について」のページを参照してほしい。

水があるなら流水での手洗いを

Q:これからの季節気になるインフルエンザ対策として重要なことは?

写真はイメージ=(c)pino-123RF

A:インフルエンザは散発的な流行入りとなっており、その発生状況には地域差がある。ボランティアに参加する際は、被災地にインフルエンザを持ち込まないようにするため、症状がなくてもマスクを着用したい。感染している本人が着用することで、万一発症した場合でも、被災地の住民への感染を防ぐことができるからだ。

 マスクがない場合には、「人に向かってせきをしない」「せきをする時は手で口を覆うのは避け、ティッシュや肘の内側で覆うようにする」といったことを心がけたい。

 また、インフルエンザは飛沫感染するだけでなく、感染者が手を介してテーブルやドアノブといった環境を汚染し、他の人がその場所に手で触れ、汚染された手で自分の口や鼻を触ることでも感染する。マスクをすることで、汚染された手で口や鼻に触れることが防げるため、予防的なマスク着用にも一定の効果が期待できる。ただし、「マスクを取る時の手洗い」は怠らないこと。でないと、汚染された手で口や鼻に触れてしまう可能性がある。

 もちろん、飲食前やトイレ使用後の手洗いなども重要だ。水が十分にない場合は、まず汚れを拭き取る。手についた菌やウイルスは、アルコールを含むウエットティッシュや、アルコール性手指衛生剤を活用して消毒するのがお勧めだ。しかし、これから流行期に入るノロウイルスにはアルコールはあまり効果がないので、水があるならば流水での手洗いの方が望ましい。

Q:ノロウイルスでほかに気を付けるべきことは?

A:ノロウイルスは下痢がおさまってからも、数日から数週間にわたり便に排出される。下痢や嘔吐(おうと)などの症状があった人は、症状が落ち着いた後も他者への感染に気を付ける必要がある。ひどい下痢の時は、用を足してから手洗いが済むまでの間に手で触れる「便器の水を流すレバーやボタン」「トイレの個室のドアノブ」「洗面台の蛇口のハンドル」などについて、お尻を拭くのとは反対側の手で触れるように心がけたい。そうすることで汚染を防ぐことができる。

下痢などの症状が表れたら早めに伝える

Q:下痢や嘔吐など食中毒を疑う症状が表れた場合は、どうすればいいか。

A:下痢や嘔吐などの症状が出た場合は、脱水状態にならないように注意し、できれば速やかに医療スタッフに相談をしたい。通常は、食中毒の原因菌が自然に排出されたほうが回復が早いので、下痢止めや抗菌薬は使わないのが一般的だ。ただ、災害時には水不足などが生じ、下痢による脱水対策のポイントとなる十分な水分摂取ができないこともあるので、必要に応じて薬剤を使用することもある。2次感染を防ぐためにも、早めに医療スタッフに相談したい。下痢や嘔吐だけでなく、せきや発熱といった症状が出た場合も同様だ。

 被災後は、普段の生活よりも栄養状態が悪化していたり、復旧作業による疲労の蓄積や体力の低下があったりすることも多く、その場合はより感染症にかかりやすくなる。特に、避難所で集団生活を送る場合は、感染症が発症すると流行が拡大しやすくもなる。

 大変な時だけに、周囲への気遣いから症状や体調不良を訴えるのを遠慮してしまう人もいるが、感染症への対応が遅れると、重症化したり、結果的にほかの人へ感染を広げてしまったりする恐れがある。下痢や嘔吐、発熱やせきといった症状が表れた時には、早めに医療スタッフや周りの人に伝えることも、重要な感染症対策となる。

[『豪雨被災地、今後は食中毒などに注意。手洗いやマスクが基本』を再構成]

【被災地での感染対策に関する参考情報】

今村顕史(いまむら あきふみ)さん
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長
今村顕史(いまむら あきふみ)さん 1992年浜松医科大学卒業。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。自身のFacebookページ「あれどこ感染症」でも、その時々の流行感染症などの情報を公開中。都立駒込病院感染症科ホームページ(http://www.cick.jp/kansen/)。
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