豪雨被災地、今後は食中毒などに注意。手洗いやマスクが基本
西日本豪雨被災地における感染症対策
田村知子=ライター
土砂の処理や家の片付けなどが進んでくると、災害時の環境などによる感染症のリスクは徐々に低下し、食中毒やいわゆる風邪をはじめとする呼吸器の感染症など、一般的な流行感染症の延長での注意が必要になってきます。
特に、被災後で水回りなどの衛生環境や食材の保存状態が普段よりも悪化している状況では、より食中毒のリスクが高まります。
手洗いにはアルコール性手指衛生剤を活用
食中毒の予防には、どのような対策が有効でしょうか。
暑さが続くこの季節、日常生活での食中毒対策と同様に、調理や食事の前、トイレの後やおむつの処理後などに手洗いを行うことや、食材を十分に加熱し、生ものは避けるといったことが大切です。
ただ、ウエルシュ菌という食中毒の原因菌は、100度で加熱しても死滅せず、40~50度の高温で増殖しやすい特徴があります。炊き出しでカレーや煮物などを大きな鍋で大量に作る場合には、ゆっくり温度が下がる過程で菌が増えてしまうので、早めに食べきる、すぐに小分けにしてしまう、できるだけ素早く冷ますといった工夫をするといいでしょう。
また、災害後は、避難所で作られるおにぎりによる食中毒がしばしば発生します。これは、もともと人の手に常在している黄色ブドウ球菌が原因となるので、おにぎりを作る際には素手は避け、ラップや使い捨て手袋を使うようにします。

手洗いはほとんどのウイルスや細菌に有効なので、食中毒の予防だけでなく、様々な感染症対策の基本となります。
目に見える汚れはできれば水で洗い流せるといいのですが、水が十分にない場合は、まず汚れを拭き取ります。手についた菌やウイルスは、アルコールを含むウエットティッシュや、アルコール性手指衛生剤を活用して消毒するのがお勧めです。その際は、目・口・鼻に触れやすい指先をきれいに拭くようにします。
被災地では結膜炎や呼吸器感染症の報告があるようですが、手洗いはそれらにも有効です。結膜炎の予防には汚れた手で目に触れないように注意して、片付けなどの作業時にはゴーグルやメガネで目を保護します。また、呼吸器感染症の予防には手洗いに加えて、マスクの着用が有効です。マスクがない場合には、「人に向かってせきをしない」「せきをするときは手で口を覆うのは避け、ティッシュや肘の内側で覆うようにする」といったことを心がけてください。
下痢などの症状が表れたら早めに伝える
下痢や嘔吐など食中毒を疑う症状が表れた場合は、どうすればいいでしょう。

下痢や嘔吐などの症状が出た場合は、脱水状態にならないように注意し、できれば速やかに医療スタッフに相談をしてください。通常は、食中毒の原因菌が自然に排出されたほうが回復が早いので、下痢止めや抗菌薬は使わないのが一般的です。ただ、災害時には水不足などが生じ、下痢による脱水対策のポイントとなる十分な水分摂取ができないこともあるので、必要に応じて薬剤を使用することもあります。治療や二次感染を防ぐためにも、早めに医療スタッフに相談してほしいと思います。下痢やおう吐だけでなく、咳や発熱といった症状が出た場合も同様です。
被災後は、普段の生活よりも栄養状態が悪化していたり、猛暑や復旧作業による疲労の蓄積や体力の低下があったりすることも多く、その場合はより感染症にかかりやすくなります。特に、避難所で集団生活を送っている場合は、感染症が発症すると流行が拡大しやすくもなります。
大変なときだけに、周囲への気遣いから症状や体調不良を訴えるのを遠慮してしまう人もいますが、感染症への対応が遅れると、重症化したり、結果的にほかの人へ感染を広げてしまったりする恐れがあります。下痢や嘔吐、発熱やせきといった症状が表れたときには、早めに医療スタッフや周りの人に伝えることも、重要な感染症対策となります。
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長
