生魚は「新鮮=安全」とは限らない! アニサキスによる食中毒にご用心
体長数メートルにもなる裂頭条虫にも注意
田村知子=ライター
気になる感染症について、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く本連載。今回は魚介に寄生する「アニサキス」による食中毒を取り上げる。今は初ガツオがおいしい時期だが、アニサキスはカツオから見つかることも多い。魚介を安全に食べるためには、どのようなことに注意すればよいのか。アニサキスの特徴や食中毒の予防法を聞いた。

【ココがポイント!】
- アニサキスはサバ、サンマ、アジ、カツオなど多くの魚介類に寄生している
- アニサキス食中毒の報告件数は10年で40倍近くに増加
- 胆石症と間違えるほどの激しい腹痛が起きることも
- 「新鮮=安全」とは限らない。生食は避け、加熱や、冷凍などで予防を
- ヒラメ、サケやマスの生食は、別の寄生虫のリスクもある
食中毒の原因第2位、推計では年間7000件発生
この連載では以前、鶏肉に多いカンピロバクター菌が原因となる細菌性の食中毒を取り上げました(「食中毒、実は多い鶏肉由来 鳥刺しは注意、焼き鳥も…」を参照ください)。今回は魚介に寄生している「アニサキス」による食中毒ということですが、アニサキスとはどのようなものでしょうか。
アニサキスは線虫の一種で、サバ、サンマ、アジ、カツオ、イワシ、サケ、ニシン、ホッケ、マス、イカなど、多くの魚介に寄生しています。体長は2~3cmで、肉眼では白い糸のように見えます。魚介類の内臓を中心に寄生していますが、魚の鮮度が落ちると、筋肉(刺し身などで食べる身の部分)の方に移動する傾向があります。
一般的なスーパーなどで購入した魚でも、内臓や身をよく探してみると、小さくとぐろを巻いた白い糸のようなアニサキスが見つかることがあります。
アニサキスは意外と身近に存在しているのですね。アニサキスによる食中毒は、どのくらい発生しているのでしょうか。
厚生労働省が発表している平成29(2017)年の「食中毒発生状況」の資料によれば、アニサキスによる食中毒の報告件数は230件。2016年の124件から100件以上増加しており、カンピロバクター菌の320件に次ぐ第2位の原因となっています。2007年には6件だった報告件数が、10年で40倍近く増えていることになります。
ただ、これらの件数は医療機関から発生届が提出された報告数なので、これ以外にも多くの未報告例があると考えられます。国立感染症研究所が行った調査によると、2005~11年に医療機関を受診した約33万人の診療報酬明細書データを基にした試算では、年間に約7000件のアニサキス食中毒が発生していると推計されています。つまり、報告件数は氷山の一角であり、実際にはさらに多くのアニサキス食中毒が発生しているのです。
激しい腹痛や嘔吐を引き起こすことも
アニサキス食中毒では、どのような症状が出るのでしょうか。
アニサキスが寄生した魚介を食べ、胃や腸に入ることで、腹痛や嘔吐(おうと)などを引き起こします。症状は人それぞれで、特に出ない場合や軽い場合もあれば、虫垂炎(いわゆる盲腸)や胆石症などと間違えるほどの激痛が起きることもあります。
腹痛は、アニサキスが胃や腸の壁を刺すことによる痛みなのでしょうか。
アニサキスは胃や腸の壁に潜り込んで寄生する習性がありますが、刺すことによる痛みで腹痛が起こるというわけではありません。機序は明らかになっていませんが、アニサキスによるアレルギー反応が症状を引き起こすのではないかと考えられるようになっています。
- 次ページ
- 生食は避け、加熱か冷凍を
