はしか感染、さらに拡大の恐れ 流行地域以外でも注意を
過去10年間を含めても最多ペースで急増
田村知子=ライター
気になる感染症について、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く本連載。今回は「麻疹(はしか)の感染拡大」について解説いただく。国立感染症研究所の発表によれば、3月10日までの日本全国の感染報告数は304人。2014年の流行時には年間462人の感染者数を記録したが、過去10年間を含めても最多ペースで急増している。春休みやゴールデンウイークなど人の移動が増える時期を控えた今、流行地域以外でも注意が必要だ。
【ココがポイント!】
- 今回の麻疹流行はすでに感染経路が追えなくなってきており、今現在は発生していない地域でも今後感染者が出る可能性はある
- 麻疹は「空気感染」のため、感染力が非常に強い
- 10~12日間の「潜伏期」があり、発症から5日間程度の「カタル期」には風邪と似た症状しか出ないため、初期での診断が難しい
- 麻疹に感染すると脳炎や肺炎などの合併症を起こすリスクがあるほか、免疫力が低下した状態が続き、他の感染症にかかりやすくなることがある
- 最も有効な予防策はワクチン接種
- 流行時に風邪のような症状に加えて高熱や発疹が出たときは、保健所や医療機関にまず電話で相談。本人がマスクを着用するなど麻疹を疑って行動する
流行拡大で感染経路が追えない状況に
2019年に入ってから大阪府や三重県を中心とした近畿圏で麻疹が流行し、現在は東京都や千葉県、神奈川県など関東圏にも拡大してきています。
近畿圏での流行は、三重県津市での宗教団体による研修会、大阪市内の商業施設でのイベントなどから広まり、近畿圏に拡大しました。
2018年3~5月の沖縄での麻疹流行時にも『感染力強い「はしか(麻疹)」。流行繰り返さないために予防接種を』の記事でお話ししましたが、日本の麻疹は2015年3月27日から、日本特有のウイルスによる麻疹が3年以上発生していない「排除状態」となり、現在では「輸入感染症」と考えられています。ただ、海外から持ち込まれることをきっかけに、国内での感染が広まることは度々あります。
麻疹を診断した医療機関には保健所への届出義務があり、麻疹の報告を受けた保健所は、その患者の発症までの行動などを確認する接触者調査を行います。そのため、発生した当初は感染経路が明らかになりますが、二次感染、三次感染、それ以上となっていくと、追跡が困難になっていきます。
現在はすでにその状況にあり、今の時点で麻疹が発生していない地域でも、これから発生、拡大していく可能性があります。
同じ空間にいただけで感染のリスクが
例えば、2019年2月には、大阪府が新大阪・東京間の東海道新幹線を利用した40代の女性が麻疹に感染していたとして、乗車していた列車番号を公表。川崎市でも東南アジアから帰国した男児の麻疹感染が分かり、利用した鉄道や商業施設を発表し、注意を呼びかけていましたね。
それは、麻疹は非常に感染力が強い「空気感染」をするからです。現在、麻疹と同様に流行している風疹も、インフルエンザの2~5倍といわれる感染力がありますが、風疹はくしゃみや咳(せき)などによる「飛沫感染」による感染なので、同じ空間にいても距離が離れていれば感染しないのです。
ところが、空気感染する麻疹は同じ空間にいるだけで感染するリスクがあります。そこで、流行時にはさらなる感染拡大をとどめるために、感染者が利用した交通機関や施設などに居合わせた可能性のある不特定多数の人に向けて、注意を呼びかけることがあります。
- 次ページ
- 発熱があれば麻疹を疑う