はしか感染、さらに拡大の恐れ 流行地域以外でも注意を
過去10年間を含めても最多ペースで急増
田村知子=ライター
麻疹は免疫がない人が感染すれば、ほぼ100%発症します。ただ、感染しても10~12日間は症状が出ない潜伏期間があり、発症から5日間程度の「カタル期」には鼻水やくしゃみ、咳、喉の痛みといった風邪のような症状しか出ません。この時期に麻疹ウイルスに対する抗体検査を受けたとしても、まだ抗体価の上昇は見られないことが多いため、初期に麻疹と診断するのは極めて難しいといえます。しかも、カタル期が最も感染力が強いので、「風邪かな?」などと思っているうちに、感染を広げていってしまうのです。
麻疹感染後は、他の感染症も発症しやすくなる
風疹では免疫のない女性が妊娠初期に感染すると、生まれてきた子どもに難聴や白内障などが生じる先天性風疹症候群を発症する可能性があるといわれますが、麻疹でも重症化するケースはありますか。
麻疹の場合は、感染した本人にとっては、麻疹の方が重症となるリスクが高く、脳炎や肺炎で死亡することもあります。乳幼児が感染すると、数カ月、数年とたっていくうちに、知的障害、性格変化、脱力発作、歩行異常などの症状が進行していく亜急性硬化性全脳炎(SSPE)をまれに発症することもあります。妊婦が感染すれば、流産や早産、死産を招く危険もあります。
また、麻疹に感染すると、免疫力が低下します。麻疹の症状が回復しても、数カ月から長ければ1年程度、免疫力が下がったままの状態が続くこともあり、他の感染症にかかりやすくなります。
流行時に発熱や発疹があれば、麻疹を疑って行動を
感染初期には本人が麻疹と気づいたり、医療機関で麻疹と診断するのは難しいということですが、感染しない、感染を広げないためにはどうすればいいでしょうか。
麻疹に感染したことがなく、これまでに予防接種をしたことがない人や、予防接種をしたことはあっても1回だけという人は、免疫がないか十分ではないため、ワクチンを接種しておくことが最も有効な感染予防策になります(ワクチンについては以前の記事『感染力強い「はしか(麻疹)」。流行繰り返さないために予防接種を』を参照してください)。
風邪のような症状があり、2~3週間以内に麻疹が発生した場所を訪れたり、麻疹を発症した人と接触した可能性があったりするときは、感染している可能性があります。
ただ、現在のように、二次感染、三次感染と拡大しているときには、身近に麻疹に感染した人がいなくても、いつ、どこでウイルスにさらされているか分かりません。高熱や発疹が出てきたときには、麻疹と疑って行動した方がよいでしょう。その際は、最寄りの保健所か医療機関に電話をして相談し、指示を受けるようにしてください。そのまま受診してしまうと、移動中や医療機関で感染を広めてしまう恐れがあります。
特にこれからは、学生の春休みや社会人の異動・転勤などで、人の移動が増える時期です。ゴールデンウイークは10連休になる企業もあり、海外旅行へ出かける予定の人も多いでしょう。麻疹の流行がさらに拡大する恐れがあることを念頭に置いて、注意してほしいと思います。
(図版作成 増田真一)
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長
