インフルエンザ関連死、年に約1万人 注意すべき合併症は
実は怖いインフルエンザ合併症
田村知子=ライター
小児に多いインフルエンザ脳症、成人の死亡例も
国立感染症研究所の発表によれば、インフルエンザウイルスが原因とされる脳症(以下、インフルエンザ脳症)は、2019年9月2日から12月29日までに134例と報告されています。インフルエンザ脳症はどのような病気でしょうか?
インフルエンザ脳症は小児に多い合併症で、インフルエンザの発症後に、意識がもうろうとする、意味不明な発言や行動をする、けいれんが起こるといった症状が表れます。
小児が多いとはいえ、成人が発症しないというわけではありません。インフルエンザ脳症の報告数のグラフでも、届出時の死亡報告数が10例あり、15歳未満が8例、30代と80代で各1例となっています。
厚生労働省の「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」が行った調査では、全体で毎年50~200例の報告があり、その致死率は10~30%と高め。
また、治っても重い後遺症を残すことがあります。小児に限らず成人でも、先述した意識障害などの症状が表れた場合は、速やかに医療機関を受診するようにしてください。
インフルエンザに伴う発熱に解熱剤を用いると、種類によってはインフルエンザ脳症のリスクが高まるという話を聞いたことがあるのですが。
非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど)は、そのほかの薬剤に比べると、インフルエンザ脳症のリスクが多少高まるという報告があります。そのため、医療機関では、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンを中心に処方しています。インフルエンザで高熱が出たからといって、手持ちの解熱剤を自己判断で飲むのは危険なのでやめましょう。
インフル後も、せきや息切れなど細菌性肺炎の兆候に注意
インフルエンザ肺炎と、インフルエンザ後に発症する細菌性肺炎は違うものなのでしょうか。
インフルエンザ肺炎は、インフルエンザウイルスが直接的に引き起こす肺炎です。一方、インフルエンザ後に発症する細菌性の肺炎は、インフルエンザによって気道や体の免疫が低下することで、細菌によって引き起こされる肺炎です。いずれも高齢者に多く見られます。特に細菌性肺炎は、高齢者がインフルエンザ後に死亡する大きな原因となっています。
細菌性肺炎の最も多い原因菌は、一般的な肺炎でもよく見られる肺炎球菌ですが、黄色ブドウ球菌が原因となることもあります。黄色ブドウ球菌は皮膚などに存在する常在菌で、通常は肺炎を起こしにくいはずなのですが、インフルエンザの発症後は、それだけ免疫が低下しているということでしょう。
肺炎を合併する場合は、どのような症状に注意すればよいですか。
インフルエンザ発症から4~5日経過しても高熱が続いている、数日たってもせきが悪化したり、息苦しさを感じたりする場合は、細菌性肺炎の合併が疑われます。
ただ、高齢者の場合は、若い人に比べて高熱が出にくい傾向があるので、微熱が続いている状態でも、せきやたんが増えてきたり、息切れ感が増したり、呼吸が浅く速くなったりしてきた場合は、細菌性肺炎の可能性を考慮した方がいいでしょう。
細菌性肺炎を発症すると、抗インフルエンザ薬では治らないので、抗菌薬の服用が必要になります。
インフルエンザはどのような人が重症化しやすいのでしょうか。
一般的には、乳幼児や高齢者、妊婦のほか、慢性の呼吸器疾患や心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害のある人は、重症化しやすいと考えられます。また何らかの病気や状況で免疫機能が低下している人(ステロイド剤や免疫抑制剤、抗がん剤の投与など)も、重症化のリスクが高まります。
インフルエンザの重症化を防ぐ方法はありますか。
インフルエンザの重症化を予防するには、ワクチンの接種が有効です。インフルエンザワクチンは感染そのものを防ぐことよりも、重症化を防ぐことに効果を発揮します。高齢者の場合は、インフルエンザ後に発症する細菌性肺炎のリスクを考慮して、肺炎球菌ワクチンを接種しておくのもいいでしょう。
日ごろから手洗いやマスクの着用などでの予防も心がけ、もしインフルエンザと診断された場合には、出勤や登校などの外出は控え、自宅で安静に過ごすことも大切です。
(図版:増田真一)
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長
