私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、肝硬変や肝臓がんへと進行する恐れのある脂肪肝「NASH」を見つける方法について。

Episode 何の症状もないのに“悪玉”脂肪肝が進行中!
旅行代理店に勤務する山口隆俊さん(45歳)は、風邪など病気で会社を休んだことがほとんどない健康体が自慢だ。喫煙はせずお酒もほどほど。不規則な勤務と運動不足のせいもあって、体重は20代と比べて15kgも増えたが、体調はすこぶるよい。
そんな山口さんの体に定期的にイエローカードを出してくれるのが、会社で毎年行っているメタボ健診(特定健康診査)だ。「また、体重を減らせと言われちゃうな」と思いながら、恒例となった医師の指導(特定保健指導)を受けたのだが、今年はいつもより健診医の笑顔がちょっと硬かった。
医師のアドバイスは「血液検査の結果、特に肝機能検査の結果がいつもより悪い方向に変化しています。脂肪肝が疑われますね。一度、消化器科などで肝臓のエコー(超音波)検査を受けることを勧めます」というものだった。
驚きはなかった。社内でも、ポッチャリした体型の中高年社員の多くが「脂肪肝の疑いあり」と診断されていたからだ。少し頑張って体重を落とせばいいのだろうと気軽に考えていたが、家に帰って奥さんにその話しをすると、奥さんの顔色が変わった。
健康オタクの奥さんは「脂肪肝のなかには、放っておくと肝硬変や肝臓がんの原因にもなる『悪玉』の脂肪肝があるから、早く病院で調べてほしい」と言うのだ。
そこで、かかりつけ医に紹介状を書いてもらって、近くの大学病院の消化器内科を受診した。肝臓のエコー検査による結果は脂肪肝だった。ただし、「悪玉」の脂肪肝なのかどうかは、普通のエコー検査や血液検査では分からないという。
担当医は「放置すると肝硬変や肝臓がんに移行するリスクの高い脂肪肝のことをNASH(ナッシュ)と言います。NASHの診断には肝生検といって肝臓に針を刺し組織の一部を採取する検査が必要です。しかし、最近では超音波エラストグラフィ検査(フィブロスキャン)、MRエラストグラフィ検査といった体の負担の少ない補助的な検査方法も開発されていますので、まずは受けてみることをお勧めします」と解説してくれた。
新しい検査は外来でも受けられる。山口さんはさっそくフィブロスキャン検査を受けたところ、結果は初期段階のNASHの可能性があるというものだった。肝臓の組織で炎症による線維化が起きていて、肝臓全体が硬くなる兆候が見られたという。
そして医師と相談の上、定期的な受診で経過を見ながら、運動療法、食事療法で肝臓の状態を良好に保ち、肝生検は必要に応じて行うという治療方法を選択することにした。
担当医は「NASHは、進行するほど病気を改善しにくくなる。早期に発見できてよかったです」と話した。そして山口さんは、奥さんが健康オタクで本当によかったと心から感謝した。