私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回のテーマは、それまでに人生で感じたことがないような強い痛みに襲われ、一刻を争う怖い病気である「急性大動脈解離」について。

Episode ゴルフの最初の一打で、経験したことのない激痛が…
総合化学メーカーの営業企画部門に勤務する本山裕章さん(51歳)の自慢は健康だ。体脂肪率18%は、ゴルフのスコアアップのために始めた週1回のジム通いの成果だ。
毎年受けている特定健診でも、血液検査の結果は全て正常範囲。問題は、健診で測定した(収縮期)血圧が141mmHgとちょっと高めなことだったが、「年相応」だろうと気にすることはなかった。
そんな本山さんに異変が訪れたのは昨年の12月。気心の知れた業界仲間と開催した忘年ゴルフ大会だ。天候は薄曇りで冷たい風が吹くなか、午前9時にスタート。このところ不調が続いているティーショットを前に緊張が高まっていたが、そのとき急に胸が痛くなり、やがて痛みは背中から腰にかけて広がり、めまいもしてきた。
このとき、仲間がすぐに救急車を呼び、本山さんは大学病院に搬送された。救命救急室で測った血圧は200mmHg。心電図と心エコー(超音波)検査の結果、告げられたのは急性大動脈解離の可能性が高いということだ。
精密検査のためCT検査が行われたころには痛みは和らいできたが、今度はお腹が痛くなり、それから30分ほどすると足が動かなくなった。その段階で手術室に運ばれ、ステントグラフト内挿術という外科治療が行われた。
治療後、担当医は「すぐに運ばれてきたのがよかったです。急性大動脈解離の治療は進んでいますが、来院までの時間によっては命にかかわることもありました」と話した。
1週間の入院中には、ゴルフ仲間も駆けつけてくれたが、彼らの判断には感謝しかなかった。また、医師から、発症の背景には高血圧があると告げられていたため、退院後は降圧剤を使った積極的な血圧管理に努めている。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。