私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、破裂すると死亡リスクが高い「脳動脈瘤」について。
Episode テニスでボールが二重に見えて… 「脳動脈瘤」が発覚

損害保険会社に勤務する藤田直之さん(仮名:45歳)は、健康には「ほどほど」に気を配った生活を送っていた。酒は自宅で軽く一杯、タバコは食後にベランダで1~2本。その結果、健康診断の結果も、上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg前後と少し高めだったほかはいたって健康だった。
運動もほどほどに、週1回、テニスクラブに通っていたが、今年の夏、練習中に異変に気づいた。ロブなど高いボールでミスが続いたのだ。どうもボールが2つに重なって見え、打ちにくい。なんとかしたいと近くの眼科で受診したところ「複視という症状です。異常は右目だけにあるので、眼を動かす神経に原因がありそうです」と言って精密検査を受けるための紹介状を書いてくれた。
予約した市立病院の脳神経外科では、簡単な問診の後、血圧測定、血液検査とMRI(磁気共鳴画像診断装置)を用いたMR血管撮像法(MRA)という検査が行われた。検査は1時間ほどで終わり「緊急事態ではなさそうだな」と安心していたが、診察室で受けた担当医の説明は思いもよらないものだった。
「大脳の底の部分にある動脈の分岐の部分に直径約10ミリの動脈瘤が見つかりました。動脈瘤は動脈の壁が風船のように膨らんでしまったもので、破裂すると、くも膜下出血を起こします。その場合、約3割の人が命を失い、約4割で後遺症が残ります。現在ではリスクを下げるための治療が進歩していますので、これから精密な検査をしながら一緒に治療方針を決めていきましょう」
担当医によると、動脈瘤が見つかった場所は「内頸動脈」と「後交通動脈」という血管が分かれる場所で、この場所には眼の動きを司る動眼神経があり、動脈瘤が神経を圧迫することで目に症状が出ていたのだ。複視は、普段の生活では気づきにくい程度のものだったが、テニスのおかげで早く気づけたともいえる。
ただ、くも膜下出血で死ぬのは恐ろしいが、脳の手術を受けるのも勇気がいる。最近は、頭蓋骨を開けて行う外科手術ではなく、血管にカテーテルという細いチューブを通して行う手術が増えているとのことだが、どのような治療にするかはより詳しい検査の結果を見て決まる。「しばらく様子を見ましょう」となればいいのだが…。
そして2週間後に行われたのは、ヨード造影剤を用いた検査だ。この検査で動脈瘤のより詳しい形状や破裂リスクなどがわかる。藤田さんの緊張は高まった(後編に続く)。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。
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