私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、脂肪肝が原因の肝硬変について紹介する。
Episode 胸に血管が浮き出る… 肝硬変の予兆?
電子機器メーカーの総務部長を務める横山和巳さん(56歳)の趣味は、美味しい物を食べることと飲むこと。毎日、食事をしながら2合ほどの日本酒をたしなむのが楽しみだった。
そのせいか、体重は20代の頃と比較して10キロ以上増え、会社の健康診断では、体重を落とすように言われ続けててきた。そして今年は肝機能検査の数値も高めになり、再検査の担当医からは「脂肪肝の可能性がありますね。お酒はほどほどに」と言われた。
しかし、脂肪肝は同僚の多くが健診で指摘されており、深刻な事態とは思わなかった。以後、自分なりの「ほどほど」を実践してきたつもりの横山さんだったが、秋に自分の体に異変が起きているのを感じた。
家族で温泉旅行に行ったとき、温泉の洗い場で胸にクモの足のような血管が浮いて見えるのに気づいた。しかも、下腹が妙に膨らんでいる。それを見て「みっともない中年太りをしたものだ。この血管は何だろう」と思ったという。
横山さんは、しばらくこのことを忘れていたが、10月の終わり、朝起きたときに気分が悪くなって洗面所で吐血した。真っ赤な鮮血を洗面器の底にたまるほど吐き、思わず気を失いかけたが、自分で救急車を呼んだ。
救急病院での診断は「食道静脈瘤の破裂」だった。食道静脈瘤は、肝硬変の合併症の一つで、食道にできた静脈のコブが裂けて出血する。大量に出血すると死亡することもある。幸い横山さんの場合は、小規模の出血で命に別状はなかったが、「初期の肝硬変」と診断されたことがショックだった。
そして横山さんは思った。「これまで翌日に残るような飲み方はしなかったし、休肝日も設けていた。検査の結果、肝硬変の原因となるウイルス性肝炎もなかった。いったい何が原因で肝硬変になってしまったのだろう…」
飲酒が原因の肝硬変は1割強ほどだが…
肝硬変は、慢性的な肝炎が20~30年続いた結果、肝臓の細胞が破壊されて減り、かわりに線維性の組織が増えた状態だ。肝臓全体がガチガチに硬く変質する。重度になると、たんぱく質の合成など肝臓の重要な機能に影響が出はじめる。最終的には肝臓の機能が失われる肝不全の状態になり、生命を維持できなくなる。
肝硬変になる原因として、昔から酒との関係はよく知られている。しかし、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器科元准教授の浅部伸一さんは「日本の肝硬変患者のうちアルコールが主な原因と考えられるのは1割強ほど」と話す。
日本人における肝硬変の原因の約5割を占めるのは、C型肝炎によるものだ。ウイルスによって起こる病気で、血液を介して感染する。浅部さんは「C型肝炎ウイルスの感染者は国内に約190~230万人いると考えられているが、最近では治療薬の進歩が目覚ましく、飲み薬で完治できるようになった。C型肝炎が原因の肝硬変は今後減少していくと考えられる」と解説する。