私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回のテーマは、糖尿病の合併症だ。

Episode メタボ検診で見過ごした… いきなり糖尿病の合併症に
分析機器メーカーに勤務する野田健介さん(38歳)は、これまで健康には人一倍気をつかってきた。長年、工場で品質管理の仕事に携わってきたので、比較的規則正しい生活を送り、週3回のウォーキングも欠かさなかった。
しかし、2年前に東京本社の営業支援部門に配属されたことで生活は大きく変わった。専門知識を生かし全国のユーザーに技術サポートを行うのが仕事だ。週2回の出張というのも当たり前の生活になった。生活時間は不規則になるし、食事も外食がほとんどになった。運動の機会はめっきり減り、体重も1キロだが増えた。
ただ、安心したのは、今年の5月に行った職場の特定健診(メタボ検診)で異常が見つからなかったことだ。血糖値(空腹時血糖値)や血圧は正常、腹囲もギリギリOKというところだった。
その野田さんに異変が起きたのは9月のことだ。出張から戻り、自宅で食事をしながらテレビを見ていたところ、なぜが画面にピントが合いづらい。「疲れがたまったせいだろう」と深く気にしなかったが、翌日、社員を対象としたセミナーの講師を務めたところ、プレゼン資料の文字が二重に見えた。
さすがに心配した野田さんは、上司の了解を得て職場近くの眼科を受診した。診断の結果は「モノニューロパチー」という聞き慣れない病気だ。医師は「糖尿病による高血糖が原因で、片方の目の眼球を動かす神経に障害が起きた場合などに起こります」と話し、血液検査を行った。
3日後の検査結果を聞きにいくと、過去数カ月の血糖値の状態を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という検査の値が8.1(%)で、すぐに糖尿病と診断された。
糖尿病の治療を受けることになった内科の医師は「年1回の空腹時血糖値だけでは、高血糖を見逃す場合があります。モノニューロパチーは血糖値が高いときに起こる神経症状の一つで、今回は糖尿病の発見に繋がってよかったです」と解説してくれた。野田さんの生活環境の急激な変化やストレスが、気づかないうちに血糖値を高めていたのだ。
モノニューロパチーは糖尿病性網膜症や腎症など深刻な合併症と異なり、血糖値が改善すると回復するという。野田さんも、気持を切り替え、食事・運動療法など生活改善に励んだところ、2カ月で目の症状はすっかり解消した。血糖値のコントロールもうまくいきそうだという。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。