私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、帯状疱疹について紹介する。
Episode 猛暑後の疲れた体を襲うピリピリとした痛み
分析機器メーカーに勤める今井真弘さん(48歳)にとって、今年は「熱い夏」となった。6月から始めた営業プロジェクトが大当たりし、事務処理や生産調整に追われたほか、入社2年目社員の研修担当もあらかじめ決まっていた。まさに休日返上の忙しさだった。
また、疲れているからといって家族と過ごす時間を犠牲にするのも嫌だった。子どもたちが楽しみにしていた屋久島探検旅行を敢行。疲れたが、一生の思い出に残る夏休みになったと手応えを感じた。
そんな、今井さんの体に異変が起きたのは、夏休みが終わってすぐのこと。顔の左半分側がピリピリと痛むのだ。「日に焼けたせいかな」と放っておくと、次第に「焼けるような」「ハリで突き刺すような」痛みに変わってきた。
そんなとき部下の一人が「家族に同じ症状の者がおり、診断は帯状疱疹(たいじょうほうしん)でした」とアドバイス。ネットで調べてみると、痛み方や症状が体の片側にできることなどが一致。ネットには赤い斑点や小さな水ぶくれができるとあった。これは日焼けのせいでよく判別できなかったが、とりあえず皮膚科に相談してみることにした。
受診した皮膚科では「まだ小さくて分かりにくいですが、斑点や水ぶくれもありますね。帯状疱疹に間違いないと思います。すぐに調べましょう」と告げられた。最近では「デルマクイック」という診断キットを用いることで、クリニックでもすぐに精密な診断と迅速な治療を受けられるようになったという。
今井さんも、検査で帯状疱疹であることが確定。抗ウイルス薬をしばらく服用することになった。そして、主治医は、早期に受診できてよかったとも話す。重症化すると、痛みがいつまでも続く帯状疱疹後神経痛を生じたり、難聴や結膜炎・角膜炎による視力低下の原因になる場合もあるからだ。
最後に主治医は「考えられる発症理由は過労による免疫力低下。会社を休む必要はありませんが睡眠不足にならないように」とアドバイス。今井さんは、1日だけ休みをとることにした。
子ども時代に眠っていたウイルスが復活

帯状疱疹は「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」による感染症だ。ヘルペスウイルスの一種で、実は水疱瘡(みずぼうそう、水痘)のウイルスと同じものである。ひふのクリニック人形町院長の上出良一さんは「多くの大人は、子どもの頃に水疱瘡にかかっており、小さな水ぶくれができかゆい思いをしたのを覚えているでしょう。実は、このときのウイルスが大人の帯状疱疹の原因なのです」と解説する。
子どものときにかかった水疱瘡のウイルスは、やがて免疫ができると体内からは消えたようになるのだが、実は、このウイルスは神経細胞ととても相性がいい。体の中の「体神経節」と呼ばれる場所に潜んでいるのだ。ほとんどの人がこのウイルスを持っていると考えられるが、多くの場合ウイルスは眠ったままだ。
しかし、人によっては、疲労や睡眠不足で体の免疫力が落ちたときなどに神経細胞の中でウイルスが目覚めて活動を始める。最初の症状は、このときウイルスが神経を傷つけることによって起こる痛みだ。
上出さんは、「まず筋肉が張ったような感じとともに、ピリピリとした痛みが体の左右片側にだけ出る。2~3日すると赤い虫刺されのようなブツブツした斑点が出てくる」と解説する。症状は、全身のどこにできてもおかしくないが、多くの場合は1カ所で、顔も胴体もと複数の場所に現れることは少ないという。