私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回のテーマは、旅行で注意したい「ロングフライト血栓症」について。

Episode 旅先でまさかの発病! 治療のため3週間滞在
山岸沙也佳さん(24歳)は、損害保険会社に勤務して2年目。夏休みが近づくにつれて、昨年体験した大変な出来事が思い出されてきた。ようやく仕事にも慣れたころで、夏のボーナスが出たこともあり、実家暮らしの山岸さんは、母を海外旅行に誘ったのだ。
目的地は母が憧れていたパリ~南欧の12日間。混雑したエコノミークラスのシートはやや窮屈だったが、親切な客室乗務員のおかげもあって旅は快適だった。
あと1時間でシャルル・ド・ゴール空港に着くというとき、スリッパから靴に履き替えようとした母が「やだ、右脚のむくみがひどくて靴が履きにくい」と言った。しかし、母は普段から脚のむくみを訴えていたし、ほかに体調不良もなかったので、すぐにそのことは忘れ、空港からホテルに向かった。
そして、いよいよパリ観光という翌朝、ベッドから起き上がった母が「なんだか息苦しくて、胸が少し痛い。こんなのは初めて」と苦しそうに言った。
しばらく様子を見たが症状が治まらないので、山岸さんは「念のために」入っていた自社の海外旅行傷害保険のコールセンターに母の状態を伝えると「エコノミークラス症候群やロングフライト血栓症と呼ばれている病気かもしれません。タクシーで、こちらで指定する近くの病院を受診してください」と告げられた。
すぐさま母を病院に連れていった山岸さん。ER(救急救命室)で担当医が医療通訳を通じて告げたのは「やはりロングフライト血栓症です。フライト中、脚にできた血の塊である血栓が、肺の血管に詰まり、肺梗塞を起こしています。命にかかわる状態ではありませんが、血栓を少しずつ溶かす治療を行いますので入院が必要です」ということだった。
結局、山口さんの母が退院できたのは3週間後。上司の助言で入っていた海外旅行傷害保険がなければ、母の入院費、追加の滞在費、母の帰国のために予約したビジネスクラスの航空運賃などで、数百万円の費用が必要になるところだった。
痛い目にあった山岸さんだったが、後日、ネットで情報を調べたところロングフライト血栓症は予防可能な病気であることも分かった。自分が発症しないように気をつけるとともに、いつかまた母を海外に連れていきたいと考えている。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。