私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、尿の色が変わったときに疑われる疾患について紹介する。
Episode 一時的でわずかな血尿でも、膀胱がん!?
事務機器メーカーに勤務する斎藤浩一さん(56歳)は、朝トイレに行ったとき、尿の色がいつもと違うのに気づいた。よく見ると、ほんのり茶色がかったピンク色。「もしかして、これが血尿?」と思ったが、色は淡く体にほかの症状は一切なかった。
病院嫌いの斎藤さんは「このところ仕事が忙しかったせいかもしれない。今日はゆっくり休んで様子を見よう」と休暇をとり家で横になっていた。すると、夕方までには尿の色は正常化したのでひと安心。翌日から通常通り出勤した。
斎藤さんは、しばらくこのことを忘れていたが、半年後、会社のトイレで真っ赤な尿が出た。今度は、はっきり血の色と分かる血尿で、気が遠くなる思いであった。すぐに近くの総合病院の泌尿器科を受診。そこでは血液検査、エコー検査、CT検査、膀胱鏡検査など、さまざまな検査を受けることになった。
数日後、医師が斎藤さんに伝えたのは比較的初期の膀胱がんであることだった。治療には開腹手術が必要となるが、膀胱機能をそれほど失わずに完治することも可能であるという。最悪の事態は免れたわけだが、このとき斎藤さんの頭の中は「最初の血尿のときに、精密検査を受けていれば、完治の可能性はもっと高かったはずだ」という後悔でいっぱいだった。
目に見える血尿と見えない血尿

血尿とは尿の中に血液(赤血球)が含まれている状態だ。尿を作る「腎臓」、尿をためる「膀胱」、尿の通り道である「尿管・尿道」のどこかに出血の原因となる病気が潜んでいる可能性がある。
河北総合病院(東京都杉並区)臨床教育・研修部長の林松彦氏は、「血尿は大きく分けて目で見て明らかに血尿と分かる肉眼的血尿と、健康診断などの尿検査ではじめて分かる顕微鏡的血尿(尿潜血陽性)がある。どちらも、がん発見の重要なサインの一つなので要注意です」と話す。
健康診断や人間ドックで顕微鏡的血尿の有無を調べると、約10%の人に尿潜血が見つかるが、すべての人で病気が発見されるわけではないという。医師は血液以外に含まれているもの(白血球、結晶、細菌など)を調べたうえで、症状の有無や病歴に応じて精密検査を行う。
多くの場合、異常なしと判定されるが、ときに腎結石、腎のう胞、軽度の腎炎などが見つかることがあるほか、まれに腎臓がん、膀胱がんが発見されることもあるという。