私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、生活習慣病のある人が注意したい「心不全」について。
Episode 血圧が高いのを放置していたら「心不全」に…

自動車販売などのPR活動を受託する代理店に勤務する高木良治さん(仮名:58歳)は、ずっと営業部門を担当し、体力には自信があり、病気で長期間仕事を休んだことは一度もなかった。
会社の定期健診では、40代になって血圧が少し高いと指摘されるようになり、最近も収縮期血圧(上の血圧)が145mmHg前後だったが、広告業界の先輩の「血圧なんて、ちょい高めぐらいがバリバリ働けるんだ」という言葉に流されて治療を受けることはなかった。
そんな高木さんが不調を自覚するようになったのは、2週間前。駅の階段を駆け上ったり、趣味のテニスで激しく動き回ったりしたとき、「息切れ」を感じるようになったのだ。そのときは「もうすぐ還暦だからな」と軽く考えていたが、やがて夜ベッドに横になると寝苦しさを感じるようになり、いやな咳も出る。まさか……と高木さんの頭にまず浮かんだのは、昨年、75歳の叔父を肺がんで亡くしたことだ。
「不安は早めに解消すべし」と高木さんはかかりつけ医に紹介状を書いてもらい、近くの基幹病院を受診。紹介されたのは呼吸器科ではなく循環器内科だった。血液検査のほか、心エコー検査(心臓超音波検査)や心電図検査を行った後、担当医から「心肥大といって心臓の壁が厚くなっています。心電図の異常も見られ、心不全です」と告げられた。
愕然とした。自分の心臓がまさか命を左右する状態になっていたとは全く想像していなかったからだ。
しかし、担当医は淡々と説明した。「横になって寝苦しいのは発作性夜間呼吸困難といいます。これで発見されると心不全がかなり進んでいることが多いのですが、幸い比較的早期の段階でした。ただ心臓の働きが急激に悪くなる急性増悪を起こすと命にかかわることもありますので、しっかり治療をしていきましょう」
治療は、まずは降圧薬を試しながら血圧をしっかりコントロールすること。減塩などの食事療法や適度の有酸素運動などの運動療法も勧められた。
そんな高木さんのモチベーションを高めているのは、担当医の「血圧をしっかりコントロールすることで肥大した心臓の壁が退縮したという研究報告もあります。そうなれば急性心不全のリスクはかなり低下できますよ」という言葉だった。
目標が決まればそこに向かって突っ走れるのが営業マンの強み。「心不全なんかで死ぬものか」が血圧改善に励む高木さんの口癖になった。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。
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