私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回のテーマは、脳梗塞の原因になる「心房細動」を取り上げる。

Episode 駅の階段で今まで感じたことのない息切れが…
非鉄金属メーカーで営業の仕事をしている鹿児島俊明さん(59歳)は、企業健診で「やや肥満気味」で「血圧がやや高め(最高血圧が135mmHg)」と診断されている以外は特に問題がなし。前回の健診で行った心電図検査にも異常は認められなかった。
そんな鹿児島さんの「胸」に異変が起きたのは、朝の通勤時に駅の階段を駆け上ったときだった。ハア、ハアと息切れがしたが、全力で走ったときの息切れとは違う独特のものだった。少し不安を感じたが、10分ほど休んでいると症状がなくなったので、「このところ仕事が忙しかったせいだろう」と思った。
実際、翌日以降に階段を駆け上がっても同様の症状が出ることはなく、鹿児島さんも、すっかりそのことを忘れていた。
気になる息切れは2カ月後にも再び起こった。このときも症状はすぐ解消したので、それほど心配しなかったが、さらに1カ月後にも同じことが起きた。このときは症状が30分ほど続いた。さすがに不安を感じた鹿児島さんは「手の空いたときに休暇をとって病院を受診しよう」と思った。
しかし、その翌日。職場で打ち合わせをしているときに、急にろれつが回らなくなり、あわてて口に含んだコーヒーをこぼしてしまった。まさに「脳梗塞」のサインだ。同僚たちが救急車を呼び、大学病院で迅速な治療を受けたため、大きな後遺症も残さず脳梗塞から生還することができた。
医師から受けた説明で意外だったのは、脳梗塞の原因だ。鹿児島さんには「心房細動」という病気があり、そのせいで心臓に生じた血の塊(血栓)が脳の血管につまり、脳梗塞をもたらしたのだという。しかも、3回起きていた息切れは心房細動の症状であったという。
医師は「症状が起きる前に、無症状の心房細動が起きていた可能性もあります。早めに気づいていれば予防することもできたし、今後も再発を予防するために心房細動の管理・治療が必要です」と解説した。
鹿児島さんは「最初の胸の異変のときに、すぐ原因を確かめれば、つらい思いをせずにすんだかもしれない。心電図検査で異常がなかったため安心していたのがよくなかった」と後悔した。