私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、腰や背中の痛みとして表れる、内臓疾患の危険な予兆について紹介する。
Episode 「ぎっくり腰」かと思ったら、なんと腎臓の病気!
食品メーカーに勤めるFさん(51歳)は、営業の仕事で外回りをしているときに、腰から背中にかけて強い痛みを感じた。立っているのもつらいほどの激痛だったが、これまで腰痛の経験のなかったFさんは、「これがぎっくり腰なのか」と思ったという。そして、職場の医務室で貼り薬をもらって早々に帰宅した。
職場の友人からは「ぎっくり腰なら、横になってしばらく安静にしていれば大丈夫」とアドバイスを受けていたが、帰宅後、痛みは軽快するどころか、どんな姿勢をとってもズンズンと痛むようになり、同時に吐き気をもよおしてきた。やがて、顔面蒼白になり意識ももうろうとしてきたため、奥さんがあわてて救急車を呼んだ。
救急病院での診断は、ぎっくり腰など関節の病気ではなく「腎梗塞」だった。心臓などにできた血栓が腎臓の血管に詰まり(塞栓)、腎臓の組織に血液が行き渡らなくなる病気だ。早めに治療を開始すれば比較的容易に回復するが、遅れるとFさんのようにショック症状を起こしたり、腎臓に壊死が起こったりして、回復までに時間がかかるようになる。
Fさんの場合、自分でぎっくり腰だと思い込んでいたのが治療を遅らせる原因だったといえる。では、ぎっくり腰の痛みと内臓疾患の重要なサインとしての痛みでは、何が違うのだろう。
腰痛だと思い込むことで治療が遅れる場合も

腰の痛みは、身近な不調の一つだ。国民生活基礎調査(平成28年、熊本県を除く)によると、腰痛を訴える人の割合(有訴者率)は男性約9.2%、女性約11.8%だった。男性ではさまざまな症状のなかのトップ、女性では肩こりに次いで2番目となっている。腰痛の原因の多くは、ぎっくり腰、椎間板ヘルニア、慢性腰痛など、主に整形外科領域の病気。しかし、ときに腰痛や背部痛(背中の痛み)が、腎臓、肝臓、胆のう、心臓やその周りの血管、膵臓など、さまざまな臓器の病気のサインとして表れることがある。
なかでも頻度が多いのは腎臓の病気だ。河北総合病院(東京都杉並区)臨床教育・研修部長の林松彦氏は「腎臓は、腰の少し上にある臓器。腎臓の病気では、背中から腰にかけて痛みが広がるので、整形外科領域の腰痛と間違えることも多い」と話す。例えば、腰痛を主症状として訴える内臓の病気で、最も多いのは男性の場合は尿路結石。実際、急な激しい腰痛で整形外科を訪れる患者のうち、尿路結石だった人の割合は意外と高いという。女性の場合は急性腎盂(じんう)腎炎がもたらす急な腰痛も多い。
これらの病気では、腰痛との思い込みが、正しい診断と治療を遅らせることも少なくないという。さらに、腰痛をサインとする病気には腎梗塞や腎臓がんなど、ときに命にかかわる病気もある。整形外科領域の腰痛と、内臓の病気の重要な「予兆」としての腰痛を、見極めることが重要になってくる。