私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、働き盛りの世代に増えている「潰瘍性大腸炎」について。
Episode 「お腹が弱い」のは原因不明の難病が原因だった!

古沢篤彦さん(仮名:29歳)は、大学時代にテニス部の主将を務めるなど体力には自信があったが、唯一の弱点はお腹が弱いことだった。
大学を卒業し広告代理店に就職したときも、配属されてから下痢気味になり、1日に何回もトイレに駆け込むことに。配属6日目には便のなかに赤い血の塊があるのに気づき、受診したクリニックで内視鏡検査を受けることを勧められたが、翌日には下痢が止まったこともあり、深く考えずに検査は見送った。
その後もよく下痢は起こしたが、「ビールの飲み過ぎかな」くらいに考えていたという。
古沢さんのお腹に再び異変が起こったのは、29歳のときだ。営業チームのリーダーに抜擢され仕事量が激増。すると、強い便意で1日に5回以上もトイレに駆け込むようになった。便は軟らかく、ときに白い粘液状のものが出ることもあった。1週間後には食欲も低下。さらに、粘液状の便にドロっとした血液が混ざるようになり、もはや限界だった。
かかりつけ医の紹介で受診した大学病院で、血液検査と大腸内視鏡検査を受けた結果、主治医が告げた病名は「潰瘍性大腸炎」。大腸の粘膜に炎症が起こる病気だが、古沢さんの場合は直腸から結腸(大腸)の左半分の粘膜に炎症が広がっており、すでに「中等症」と診断された。
難しい説明はよく覚えていないが、頭に残っていたのは「原因不明の難病で完治することはない」ということと、「炎症が続くことで大腸がんのリスクが高まる」ということだった。入社時にすでに発症していたと考えると、これからは「がんの不安」を抱えながら難病と戦わなければならないのだった。
落ち込む古沢さんに主治医は「心配することはありませんよ。近年、潰瘍性大腸炎の治療薬が増え、適切な治療を続けることで日常生活を取り戻すことができます。腸の炎症を調べるために定期的な内視鏡検査を行いますので、大腸がんも早い段階で見つけることができます」と話してくれた。
古沢さんは、「これからは、この病気とうまく付き合っていこう」と気持ちを切り替えた。潰瘍性大腸炎は炎症が悪化しさまざまな症状が出る「活動期」と症状が安定し日常生活にほとんど支障がなくなる「寛解期」を繰り返す病気だが、古沢さんは、1カ月ほどの治療で寛解。営業チームのリーダーとしての手腕を十二分に発揮している。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。
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