大腸がんのリスクを高める難病が急増
潰瘍性大腸炎は、大腸の最も内側にある粘膜に炎症が起き、びらん(粘膜の一部が失われること)や潰瘍を起こす病気で国の指定難病になっている。
患者数は2014年の調査で約17万人(指定難病における医療受給者証および登録者証交付件数の合計)。この10年間で倍増した。
昭和大学横浜市北部病院・消化器センター長の工藤進英さんは「これは米国に次いで多い数字です。その背景には、日本人の食生活の欧米化と、確定診断に必要な大腸内視鏡検査が普及し発見数が増えたことが挙げられます。逆にいえば、現在でも診断のついていない潜在的な患者数はもっと多い可能性があります」と指摘する。日本人の600人に1人は大腸に炎症を持っているという研究報告もあるという。
「自分はストレスがお腹にくるタイプ」「便に血が混ざるのは痔のためだと思う」と考えている人のなかに潰瘍性大腸炎の患者がいる可能性は否定できない。
注目すべきことに、潰瘍性大腸炎を発症すると粘膜の遺伝子に変異が起こりやすくなり、7〜8年で大腸がんの発生率が高くなることが分かってきた。
潰瘍性大腸炎の発症年齢のピークは、下図のように男性で20〜24歳、女性で25〜29歳だ。「この年齢では、大腸がん発見のために大腸内視鏡検査を受ける機会は少ない。ただ、便に血が混ざるなど、気になる症状があれば、潰瘍性大腸炎の治療を早期に開始するためにも、早めに消化器の専門医療機関を受診してほしいですね」と工藤さんは強調する。
便に血が混ざる、白い粘液のような便に要注意
潰瘍性大腸炎の原因はまだよく分かっていない。しかし、これまでの研究により、体に備わっている免疫機構が関与していると考えられている。
腸にはたくさんの免疫細胞が集まっているが、ストレスなどなんらかの原因によって免疫細胞の働きに異常が生じ、正常な粘膜組織を傷つけるようになる(自己免疫)。そして、粘膜が傷つくことにより、さまざまな物質が粘膜を刺激し免疫反応の働きを活発化させるという悪循環が起こっていると見みられている。
潰瘍性大腸炎を発症したときの最も特徴的な症状には、「軟便や下痢」「頻繁な便意」「腹痛」とともに「血便」がある。
昭和大学横浜市北部病院・消化器センター助教の前田康晴さんは、「血便といっても痔のときのようなサラサラした鮮血ではありません。炎症部位で粘液の分泌が増えるので、白い粘液のなかにドロっとした血の混ざった『粘血便』となります」と解説する。
血便はもちろん、粘液便だけのときも、「アメーバ性腸炎」など治療が必要な感染性腸疾患や大腸がんのサインである可能性があるので、早めに大腸内視鏡検査を受けたい。
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- 症状は寛解期と再燃を繰り返す