私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、便の色から消化器の不調を判断する方法を紹介する。
Episode 便に血が! 痔だと思ったら、見つかったのは…?
精密機械メーカーの人事部に勤務するSさん(45歳)は、朝食後にトイレを済ませたとき一瞬ドキッとした。便器のなかの自分の便に、はっきりとした血のようなものが付着していたからだ。しかし、もともと痔を患っていたため、そこから出血したのだろうと軽く考え、会社に出かけた。
その晩、妻にその話をすると、妻は「自分の父親は血便で大腸がんが見つかった」「一刻も早く大腸がんの検査を受けたほうがいい」と何度も繰り返した。Sさんは、ちょうど仕事が忙しい時期であったため、「いつか時間ができたときに」とふんぎりがつかなかったが、妻の真剣さに負けて血便から2週間後に病院で大腸内視鏡検査を受けた。
検査の結果、血便の原因はSさんが考えていたとおり痔だった。しかし、同時に大腸の結腸という部位に気になるポリープが見つかった。大きさは1cm。高解像度拡大画像などで観察したところポリープの悪性度はやや高く、数年のうちにがんに移行する可能性があった。そこで内視鏡によってポリープを切除。医師は「Sさんの大腸はポリープができやすいタイプ。定期的に大腸内視鏡検査を受けることで、がんのリスクを減らすことができる」と話した。
今回は、血便と大腸のポリープは無関係であったが、医師によれば血便がきっかけで大腸がんが見つかることがあるという。それに血便がなければ大腸内視鏡検査を受けることもなかっただろう。「今回ばかりは妻と痔に感謝しなきゃ」と思うSさんであった。
痔だと思いこみ大腸がんを見逃すケースも

最近は温水洗浄便座の普及で座ったままお尻がきれいになる。座ったまま便も流してしまうことで、自分の便を一切見ないという人も増えている。しかし、慶應義塾大学医学部 専修医研修センター長・医学教育統轄センター教授の鈴木秀和氏は「便の色や形状は、胃、肝臓、胆のう、膵臓(すいぞう)、十二指腸、小腸、大腸など消化器の不調を発見するサインとなる」と訴える。
まず、便の色の異変で最もショッキングなのが血便だろう。ほとんどの人が「まさか大腸がんでは」と不安を感じるが、鈴木氏は「大腸がんの多くは無症状のまま進行する。血便が出て大腸がんと分かったときには、かなり進行している可能性もある」と話す。
Sさんのように、はっきりとした鮮血が便と一緒に出た場合(鮮血便)、多くの場合は切れ痔、痔核からの出血だ。しかし、そうでない場合もあるから要注意だ。例えば、直腸にできたポリープや直腸がんから出血した場合、痔の出血と区別することは難しい。自分では痔だと思い込んでいたが、診察した結果、直腸がんができていたというケースは少なくないという。