私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、風呂掃除などを通じて感染することもある「肺MAC症」。
Episode 痰に血が混ざっていて結核が疑われて心配したが…

埼玉県在住の専業主婦、上村志保子さん(仮名:54歳)は、自分を含めた家族の健康には人一倍気を使ってきた。8年前に勤めを辞めた後も、地域の特定健診やがん検診をきちんと受けてきた。検査結果も、BMIが「やせ型」(18.5未満)である以外は問題なかった。
上村さんがストレスや疲労感を感じるようになったのは2年前。近くに住む夫の母親の介護が必要になったのだ。強い疲労感を覚えることはあっても健診結果には異常がなかったため安心していたが、昨年末に風邪をひいて、ノドに痰がからんだとき愕然とした。吐き出した痰に、ティッシュが真っ赤になるほど血が混ざっていたからだ。
まさか結核では……。昨年生まれた孫にうつしたらどうしよう。慌てて呼吸器内科のある病院を受診した。
胸部CT検査と痰の検査などを行った医師が、その日のうちに「肺の中葉舌区という部分に影があります。ちょうど心臓の影と重なる部分なので、胸部X線写真では見つからなかったのでしょう。痰の塗抹検査(ガラスに痰を載せ顕微鏡で菌を探す検査)の結果、結核の可能性があるので痰の遺伝子検査を行います」と話した。結核の場合、人にうつす可能性があるので検査結果が出るまでマスクをして生活をするようにともいわれた。
それからの2日間は生きた心地のしなかった上村さんだったが、その後、医師が告げたのは結核ではなく肺MAC(マック)症という感染症の病名だった。非結核性抗酸菌と呼ばれる細菌が原因の病気で、結核のように人にうつすことはないが、完治するまで約2年と結核より時間がかかる上、病気が進行し続けると命に関わることもあるという。
そのとき医師が「上村さんは食が細いでしょう?」と問いかけたのに上村さんは驚いた。上村さんは、食事をするとすぐお腹がいっぱいになり、あまり食べられない体質だったからだ。医師は「これから経過を見てじっくり治療に取り組みましょう。ただやせている人は病気の治りがよくないので、たんぱく質を多くとって少し太るように努力してください」と話した。
上村さんは、一安心するとともに長い病気との闘いに挑もうと気を引き締めた。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。