私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、腎臓が慢性的に炎症を起こし、放置すると人工透析に至る「IgA腎症」の具体的な治療について。
Episode ノドの奥の扁桃をとり、ステロイド剤による治療を組み合わせる

(前編の続き)腎臓のなかで血液をろ過する役割を果たしている糸球体は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病や加齢、さまざまな原因で起こる炎症などによりその働きが低下していく。最終的に腎不全となり、「透析療法」に至らないようにするためには、腎機能低下の予兆を早期に発見し、医師と相談しながら生活改善や治療に取り組む必要がある。
機械部品メーカーに勤務する奥山忠明さん(仮名:38歳)は31歳のときの定期健診で「尿潜血」の反応があり、経過観察の必要が指摘されたが、直後に海外赴任になり、仕事に奔走。健診を受けることもなく3年後に帰国したところ、検査で「たんぱく尿」が発見された。
奥山さんは大学病院の腎臓内科を受診。1週間入院し、精査した結果は「IgA腎症」という糸球体に炎症が起こる病気(慢性糸球体腎炎)の一種で、腎機能のダメージはかなり大きかった。
主治医は「糖尿病がもとで起こる糖尿病腎症などと比べ、糸球体腎炎では進行を食い止める治療法が進歩しています。きちんと生活を見直すことで腎機能を改善できる可能性があります」と説明し、すぐに治療が行われることになった。
行われた治療は、ステロイドにより炎症を抑えるとともに、病気の引き金となった異常なIgA抗体を作り出しているノドの奥の扁桃(へんとう)を摘出する手術を組み合わせた「扁摘パルス療法」だ。
まず奥山さんは、病院の耳鼻咽喉科で手術を受けた。全身麻酔が必要な手術であったため、3泊4日の入院となり、そのため勤務先とスケジュール調整を行った。
その2週間後からステロイド療法が開始された。外来で3日間続けてステロイドの点滴を受け、その後はステロイドの錠剤を1日おき(隔日)に2カ月間飲む。これを1クールとして、3クール繰り返すという治療だ。
主治医はこれと並行して、海外勤務の間に増えた体重を減らすこと、血圧をしっかり管理すること、尿中のたんぱく質の量が1日2グラムと多かったので食事のたんぱく質が多くなりすぎないように注意するよう指導した。
診察日に一緒に話を聞いていた妻は、1日の食事のカロリーやたんぱく質の量を計算し、弁当も作ってくれた。そして半年後の検査で、主治医は「よく頑張っていますね。2グラムあった尿中のたんぱく質は0.3グラムまで低下しました。これがゼロになると『寛解』となるのですが、そこまでいかなくても病気の進行はかなり防げると思います」と話してくれた。
「生活改善は長距離マラソンのようなものですが、これからも頑張ってください」という主治医の言葉に、奥山さんと妻は「はい、頑張ります」と明るい声で答えた。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。